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自治体の生成AI活用のいま──札幌市が挑む、「市民サービスの充実」に向けた人材育成と行政DXのこれから

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自治体における生成AIの導入が進むなか、いかに業務効率化にとどまらず「市民サービスの充実」へとつなげていくかが大きなテーマとなっています。

今回は、札幌市職員向けに開催された生成AIセミナーの内容を振り返りながら、自治体における生成AI活用の現在地や具体的な事例、これから求められるAIリテラシーについて紹介します。さらに、札幌市総務局 行政改革・DX推進室の中川和也氏に、生成AIが行政にもたらす可能性や職員の人材育成、行政DXのこれからについて詳しく伺いました。

第一部|「使うかどうか」ではなく「どう付き合うか」へ──自治体の生成AI活用の現在地 

出典:総務省ホームページ 自治体における生成AI導入状況(令和7年度) https://www.soumu.go.jp/main_content/001070295.pdf

セミナーの第一部では、一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)の業務執行理事 兼 事務局長である小村亮氏が登壇し、自治体における生成AIの導入状況を振り返りながら、いま自治体職員が生成AIを学ぶべき理由が取り上げられました。 

2026年4月に公表された総務省の調査によると、都道府県・指定都市では生成AIの導入率が100%に到達。その他市区町村でも約46%が導入済みで、実証実験中・導入予定・導入検討中まで含めると、約88%が活用に向けた取り組みを進めています。

利用が多いのは、あいさつ文案の作成や議事録の要約、議会の想定問答の文案作成など、テキストを扱う業務です。こうした日常業務での活用に加え、横須賀市を中心に自治体間で生成AI活用の知見を共有する「自治体AI活用マガジン」の取り組みや、兵庫県南あわじ市が庁内問い合わせ用のAI検索システムやごみ分別ガイドアプリなどを職員自ら開発した事例も紹介されました。 

その上で、生成AI時代にあるべき組織の変化として、AIエージェントの台頭や「暗黙知のAI実装」を見据えた、人と生成AIの協働を加速する組織構築の重要性が説かれました。

一方で、活用が広がるにつれ、生成物の正確性や情報漏えい、著作権侵害などのリスクに加え、シャドーAIへの懸念もさらに高まっています。自治体の生成AI活用は「使うかどうか」ではなく、活用を前提に「どう安全に付き合うか」を考える段階へ。だからこそ、操作スキルだけでなく、リスクを理解して適切に判断するためのAIリテラシーが欠かせません。 

出所:市ホームページAI検索システム https://www.city.minamiawaji.hyogo.jp/site/dx/hpai.html

第二部|「自分の業務ならどこで使える?」──行政実務に広がる生成AI活用

第二部では、一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)の協議員でアンドドット株式会社 代表取締役の茨木雄太氏が登壇し、生成AIを活用するために必要な力として「AIリテラシー」「AIクリエイティビティ」の必要性について解説されました。 

「リテラシー」のパートでは、AIを活用するうえでどういった使用方法が企業内でのAI活用で問題になるか、どういう活用方法であれば安全かという明確な線引きとして、AI活用の5つのリスク(ハルシネーションや情報漏えいなど)や「AIはなぜ嘘をつくのか(確率論的アプローチ)」が分かりやすく紐解かれました。リスクや不得意分野を正しく理解し、ガイドラインや指定ツールを踏まえて安全に使うための土台が解説されました。

さらに「クリエイティビティ」のパートでは、業務を効率化・高度化させるための代表的な7つの実践パターンが提示されました。日々の業務を棚卸しし、「自分の仕事のどこにAIを活かせるか」を発想する重要性が説かれ、全国の自治体における80もの具体的な活用事例マップや国内企業・団体の生成AI活用事例を収集した最大級の「生成AI活用事例データベース」の紹介も交えながら、個人の便利な活用を組織全体の仕組みへと昇華させるためのヒントが共有されました。 

リスクの正しい線引きを知る「リテラシー」と、自分の業務を7つのパターンに当てはめてみる「クリエイティビティ」。この両輪を揃えることが、個人の便利な活用を組織全体の力へと昇華させる第一歩となります。

第三部|「生成AIが切り拓く自治体の未来」を考える  

第三部では「生成AIが切り拓く自治体の未来」をテーマに、小村氏、茨木氏、および札幌市の中川氏によるパネルディスカッションが行われました。

札幌市ではGeminiを中心に活用が進み、議事録づくりはほぼ手がかからなくなったといいます。なかでも中川氏が庁内で目にして嬉しかったという事例が、契約管理課による仕様書のネガティブチェックでした。同課が自ら、作成した仕様書を一度AIに確認させるという使い方を庁内に発信し、全庁へ広げていたのです。

茨木氏は法務に関わる部門は自らの専門領域であるがゆえに導入に慎重になりやすく、その当事者側から先に動いたのは珍しい例であり、「民間でもなかなかない」と評価しました。

小村氏は、一次チェックをAIに任せることで専門性の高い仕事に集中できる形だと受け止め、「この部分は自分でなくても一旦AIに任せてよいのではないか」という視点を自分の業務で探してみてほしいと呼びかけました。 

ここからは、セミナー終了後に行った中川氏へのインタビューをお届けします。今回のセミナーを通じて感じたことや、行政における生成AIの可能性、職員の人材育成、行政DXのこれからについて詳しく伺いました。 

「目指すのは市民サービスの充実」──生成AIを活かす人材と組織づくり  

━━今回のセミナーを振り返って、印象に残ったことや感想を教えてください。

中川:400人を超える職員が参加し、生成AIへの関心の高さを改めて感じました。一方で、「生成AIに興味はあるけれど、何から始めればいいかわからない」「自分の業務にどう活かせばいいのかわからない」という職員も、まだ多いのだと感じています。

だからこそ、組織として「生成AIを活用していこう」と打ち出すことには意味があると思っています。今回のセミナーが、職員が生成AIについて学んだり、実際に使ってみたりするための一つの着火剤になったのではないでしょうか。

━━行政の立場から、生成AIにどのような可能性を感じていますか。

中川:世の中では汎用的なチャット型AIが広く使われるようになっていますし、行政でも積極的に活用していくべきだと思っています。 

ただ、現状ではバックオフィス業務での活用が中心ですよね。これからは、AIエージェントやフィジカルAIなど新しい技術も取り入れながら、市民の皆さんがAIの恩恵を直接感じられるような行政サービスにつなげていくことが重要だと考えています。 

そのためには、技術を導入するだけではなく、職員自身がAIの特性やリスクを理解し、適切に判断できることも大切です。たとえば、AIが誤った情報を出した場合に市民向けサービスへどのような影響が出るのか、どこまでAIに任せ、どこから人が確認・判断するのか。そうした線引きまで考えられる職員が、これからますます必要になると思います。

━━生成AIを行政で活かすため、職員のキャリアやスキル、働き方をどのように変えていきたいですか。

中川:今は社会全体で人材の確保が難しくなっていて、自治体も例外ではありません。だからこそ、若手職員が自分なりのキャリアを描けることや、安心して新しいことに挑戦できる環境をつくることが大切だと思っています。職員が前向きに働き続けられる組織にしていくことも重要ですよね。 

生成AIについても同じで、管理職が「使っていいよ」「まずは試してみよう」と言える環境をつくることが、一つのきっかけになると思います。 実際に使ってみて、試行錯誤を重ねる。そうした経験を積める環境があれば、職員一人ひとりのスキルも自然と高まっていくのではないでしょうか。 

━━職員有志で生成AIパスポートの受験を予定されているそうですが、人材育成にどうつなげていきたいですか。

中川:私自身も受験する予定です。教材を見ると、生成AIを使ううえで押さえておきたい基礎的な内容から、かなり丁寧に整理されています。「なんとなくわかっている」という状態が、一番危ないと思っています。生成AIを活用していくうえでは、まず土台となるリテラシーをしっかり身につけることが重要だと考えています。

生成AIについて必要な知識を体系的に学び、学んだことを資格として形に残せることにも意味があると感じています。また、有志での受験者募集を行うことにより、「生成AIについて、こういうことを学んでおく必要があるんだ」と知るだけでも、学び始めるきっかけになると思います。

これから先、AIは仕事をしていくうえで、ますます欠かせない存在になっていくと思います。そうした未来を考えるきっかけとしても、まずは基礎から知ってもらうことが大切ですね。

━━札幌市として、これからどのような行政を目指していきたいですか。

中川:札幌市だけでなく、各自治体でも職員の採用が年々難しくなっているなかで、行政組織を持続させていくためには、これまで続けてきた業務をすべて同じように続けるのではなく、業務そのものを見直し、やめるという判断も必要になってくると思います。

そのときに、単に業務をなくすのではなく、DXやAIを活用してどう補っていくのか、より効率的な形に変えていけるのかを考えることが重要です。

ただ、自治体が目指すところは、あくまで市民サービスの充実です。業務を効率化すること自体が目的ではありません。そこを見失わずに、AIの適切な使い方を学びながら、新しい技術にも目を向けていく。そうした取り組みを、最終的には市民の皆さんの暮らしやサービスの向上につなげていきたいと考えています。

━━最後に、札幌市の職員や、各自治体でDXを推進している方へメッセージをお願いします。

中川:自治体には本当にさまざまな課題があります。札幌市のように人口規模の大きい自治体もあれば、小規模な自治体もありますし、抱えている課題や環境もそれぞれ違います。

インフラ環境によって「ここまではAIを活用できるけれど、ここから先は難しい」という違いもあると思います。だから、すべての自治体が同じ取り組みをする必要はありません。今ある環境やセキュリティをきちんと意識しながら、自分たちの自治体では何ができるのかを考え、できるところから取り組んでいくことが大切です。

また、これから在宅勤務をはじめとした多様な働き方を広げていくのであれば、β’(ベータダッシュ)モデルを含め、自治体のネットワーク環境のあり方についても長い目で考えていく必要があります。それぞれの自治体の状況に合わせて、今できることから一つずつ取り組んでいってほしいですね。

PROFILE

KAZUYA NAKAGAWA

札幌市総務局 行政改革・DX推進室 行政DX担当課に所属。行政DXの推進に携わり、生成AIを含むデジタル技術の活用や、職員が新しい技術に挑戦できる環境づくりを進めている。生成AIの適切な活用に向けたリテラシーや人材育成の重要性を重視し、自身も生成AIパスポートを受験予定。