「AIの限界」を知ることが近道だった。未経験の営業企画が1年で複数ツールを開発できた理由【Story #3】
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企業が生成AIの導入・活用を推進するなか、すべてのビジネスパーソンに求められる生成AIリスキリング。実際に生成AIを安全に活用するためのリテラシーやスキルの習得に取り組み、新たなキャリアの形成や市場価値の向上につなげたビジネスパーソンの「ストーリー」に焦点を当てたインタビュー企画をお届けします。
今回は、パーソルキャリア株式会社で営業企画を担いながら、AI未経験から1年で複数の営業支援AIツールを開発・定着させた喜田 千里氏にお話を伺いました。非エンジニアの企画職という立場だからこそ実現できた、現場を巻き込むAI推進のプロセスとは?未経験からAIツールの開発を推進した裏側と、実務に直結する「生成AIリスキリング」のヒントを探ります。
「革命が起きそう」と「自分の手に負えるのか」が半分半分だった
ー喜田さんのこれまでのキャリアと、現在のお仕事について教えてください。
喜田:2017年に新卒でパーソルキャリアに入社し、求人広告「doda」の営業としてキャリアをスタートしました。2年間営業を経験した後、社内制度を活用して同事業部内の企画職へ異動しています。
企画職として新卒育成、販促企画、商品企画を経たのち、2025年4月にセールスイネーブルメントグループへ異動しました。現在は、営業の提案力を組織的に底上げするための支援ツールの企画開発・推進に携わっています。
ー生成AIの勉強を始める前は、AIに対してどのような印象をお持ちでしたか?
喜田:正直なところ、「革命が起きそうだな」「使いこなせるようになりたいな」というワクワク感が半分。もう半分は、「実際に業務や営業活動に使えるクオリティになるのか」という半信半疑の気持ちでした。
AIの可能性は感じつつも、具体的なイメージは全く湧いておらず、「果たして自分の手に負えるものなのか」という不安の方が大きかったですね。
ーそこから「生成AIパスポート」の資格取得に向けて動き出したきっかけとは?
喜田:2025年4月の異動と同時に、生成AIを活用するプロジェクトにアサインされたことがきっかけです。自分から希望したというより、組織のミッションとして「AI活用を推進してほしい」と任された形でした。
以前から知識をつけたいとは思っていましたが、目の前の業務に追われて後回しになっていました。それが異動によって、一気に「やらざるを得ない」状況になったんです。
ただ、推進する立場である以上、自分自身に基礎知識がなければ、何をやるにしても周囲への説得力がありません。何から手をつけていいか迷っていたとき、チーム内にいるAIに詳しい同僚が「最近、生成AIパスポートを取ったよ」と教えてくれました。まずはここから体系的に学んでみようと思ったのが、リスキリングの第一歩でした。

AIは魔法の杖ではない。基礎理解が実務の支えに
ー実際に体系的な学習を進める中で、ご自身のAIに対する認識はどう変化しましたか?
喜田:「AIは魔法の杖ではなく、モデルごとに得意・不得意がある」と構造的に理解できたことが、いちばん大きかったです。
そのおかげで、「今の環境で何ができて、何が難しいのか」を冷静に判断する基準を持てるようになりました。
社内から寄せられる前向きなアイデアに対しても、「これはAIの得意領域」「これは別システムとの組み合わせが必要」と、要望を整理して考えられるようになったのは、基礎を学んだからこそだと思います。
加えて、情報漏洩や著作権など、企業で安全に使うためのコンプライアンスの線を引けるようになったことも、実務で大きな支えになっています。
ー資格取得も経て、いざ実際のツール開発に乗り出したわけですが、そこからわずか1年足らずで複数のツールをリリースされています。最初の開発はどのように進めたのでしょうか?
喜田:最初に作った「提案資料の自動作成ツール」などは、約1か月でリリースしました。
ただ、すぐに開発を始めたわけではなく、「当社の営業の型」や「顧客にとっての真の価値」の定義に最も時間をかけました。ツールの仕様から入るのではなく、「営業として本来どうあるべきか」を現場と一緒に考え抜いたことが、結果として良いツールづくりに繋がったと感じています。
また、最初から完璧を目指さず、まずは動くものを出して現場のフィードバックで改善を繰り返すアプローチをとりました。決してスマートな道のりではありませんでしたが、現場の声を一つひとつ拾い上げて泥臭くブラッシュアップし続けた過程こそが、ツールを現場に定着させるために大切だったと思います。
ー実際の営業現場や、その先のお客様の反応に変化はありましたか?
喜田:厳しい意見もありましたが、「お客様の反応が変わった」という声が多く届きました。
実際、「ここまで準備してくれたのは初めて」と信頼が深まり、受注に繋がったケースもあります。現場にツールを浸透させるために名付けた愛称も定着し、組織として愛着を持ってもらえています。
一方で、うまくいかなかったのが「ナレッジ循環のツール」です。営業ごとに情報の蓄積方法が異なり、データの粒度にばらつきがありました。
どれほど優れたAIでも、元データが揃っていなければ機能しません。商談の場からリアルタイムで情報を抽出し、構造化する仕組みづくりが来期の大きなテーマです。

AI開発を“丸投げ”しない。基礎を学んだから生まれた「共通言語」
ー未経験からのスタートで、一番大きな壁となったのは何でしたか?
喜田:いかにツールを営業現場に馴染ませ、活用してもらうか。そしてその先のお客様への価値発揮や売上向上にどうつなげるか。ここが最大の壁でした。
今の生成AIツールは、コードを一から書かなくても、プロンプトの設計と組み合わせによって形にできます。だから「作る」こと自体のハードルは、以前よりかなり下がっています。
ただ、作ったものを現場に届け、実際の成果につなげることは、まったく別の難しさがありました。これを乗り越えるために意識したのは、とにかく営業現場との「会話量」を増やすことです。
メンバー、マネージャー、責任者など、さまざまな立場の人と対話を重ねて、お互いの解像度を上げていく。また、最初から完成度の高いものを出そうとすると、何もリリースできなくなってしまう。だからこそ、まずは動くものを出し、フィードバックを受けながら改善する方針を最初から取っていました。
「最初から100%のものは作れない。だから一緒に磨いていこう」という前提を現場と共有できたことは、とても大きかったですね。結果的に、1つのツールの裏側で60個以上のプロンプトが連動して動く構成になり、その調整回数は1,000回を超えています。
しかもこれは、エンジニアではなく私たち企画チームのメンバーだけで内製しました。泥臭くて大変でしたが、営業現場のリアルをよく知っている自分たちだからこそ作れたものだったと思います。
ー社内のAI専門チームと、LLMの独自開発も進めたと伺いました。エンジニア経験がない中で、専門家との連携ではどのような工夫をされましたか?
喜田:正直なところ、最初は会話に出てくる専門用語に圧倒されました。ただ、生成AIパスポートの勉強を通じて体系的な基礎を学んでいたため、完全に理解はできていなくても、何が分からないかを言語化できる。これは非常に大きかったです。
もし基礎知識がまったくなければ、何がわからないかもわからないまま、知ったかぶりをしてプロジェクトを進めてしまっていたかもしれません。
基礎知識の土台があることで、専門チームから「このデータを参照して、こういう構造でアウトプットを出しています」と説明を受けたときに、「それなら、ここを調整すれば営業現場でもっと使いやすくなるのでは」と、実務目線で提案できるようになります。
逆に専門チームからも、「営業がどんな場面で、どのレベルの情報を必要としているのか、もっと具体的に教えてほしい」と求められる。お互いの専門性を持ち寄り、対等に要求し合える“共通言語”を持てたことが、プロジェクトを前に進めた最大の要因だったと思います。

リスキリングの先で見つけた、これからの「営業の価値」
ーこの1年のプロジェクトを通じて、営業やキャリアに対する見方はどう変わりましたか?
喜田:AIによって変革を起こせる可能性は、今でも強く感じています。ただ同時に学んだのは、「AIというツールがあるだけでは、現実は何も変わらない」ということです。
そもそも事業や営業に何が求められているのか。私たち企画は、現場にどんな価値を届けるべきなのか。まずその問いがあって、AIはそれを実現するための手段にすぎません。
前提が目まぐるしく変わる時代だからこそ、常に「何を変えるべきか」を問い続けられる存在でありたいですね。実際、社内でも「営業が“人”として担うべき領域はどこか」という議論が増えました。
きれいな提案書を作るスキルや知識量ではなく、お客様の感情や背景を読み取り、問いを立てて対話する力。そして、一歩踏み出すための、背中を押す力。AIツールを作る側に回ったことで、逆説的ではありますが、「人にしかできない営業の価値」がより見えてきたんです。
ー生成AIパスポートの取得を検討している方に、どんなメリットを伝えたいですか?
喜田:資格の取得は決してゴールではありません。ただ、知識も経験もないまま手探りで進むよりも、「自分は一通りの基礎を押さえた」という自信が、次の一歩を軽くしてくれます。
「AI活用に興味はあるけれど、何から始めればいいか分からない」という方にとって、最適なスモールステップになるはずです。
もちろん、この領域は変化が非常に速く、1週間前の知識が古くなることもあります。だからこそ、一度学んで終わりにするのではなく、社内外のセミナーや共有会にアンテナを張り、継続的にキャッチアップすることが不可欠です。
私自身、他事業部やグループ会社と情報交換する機会が増えました。学びを自分一人に閉じず、周囲と共有できる環境をつくることが、結果としていちばんの近道になると感じています。
ー最後に、生成AIリスキリングに取り組もうとしている方へメッセージをお願いします。
喜田:AIの領域は進化が速いですが、裏を返せば「いつ始めても遅すぎることはない」ということでもあります。今日の最新情報が明日には変わるからこそ、全員のスタートラインは常にフラットです。
私自身、1年前はまったくの未経験でしたし、今もまだ学びの途上にあります。それでもこの1年で、「知らないなりにまず動いてみれば、必ず形になる」と実感できました。
今後は、現場の誰もがもっと気軽にAIを使える仕組みづくりにも挑戦したいです。ぜひ一緒に、変化を楽しみながら前に進んでいけたらと思います。
PROFILE
パーソルキャリア株式会社 採用ソリューション事業部 営業企画・アシスタントマネージャー。2017年に新卒入社し、求人広告「doda」の営業を経て企画職へ転身。新卒育成、販促企画、商品企画を経験した後、2025年4月よりセールスイネーブルメントグループにて営業の提案支援ツールの企画開発に従事。AI未経験ながら、生成AIパスポートの取得を起点に営業向け提案支援AIツールを複数開発・リリースし、現場定着と事業KPIの達成を実現。社内プロジェクトアワードにもノミネートされるなど、その取り組みは社内外から注目を集めている。