「検索」から「相談」へ。AIが変える消費者行動と企業に求められる本質的なマーケティングとは
INDEX
「検索してから比較して決める」という行動に、もうひとつ別の入口が加わりつつある。生成AIに条件や悩みを伝え、AIが返す候補をもとに判断する。そうした消費行動が、2026年に入って存在感を強めている。サイバーエージェントが2026年8月に実施した調査では、検索行動において生成AI(Google検索の「AIモード」を含む)を利用するユーザーの割合が初めて50%を超え、52.3%に達した。従来型の検索エンジンの利用率(86.9%)にはまだ及ばないが、生成AIは検索エンジンに次ぐ、もうひとつの入口として広がっている。
本稿では、この変化を実際の事例を中心に見ていく。Amazonの対話型AIショッピングアシスタント「Rufus」、マックスバリュやイオンモールで進むデジタル接客、そしてAI予約代行サービスをめぐって飲食店側に生じた摩擦。いずれも、消費者にとっての利便性と、企業や店舗側が向き合うことになった課題の両面を持つ事例だ。
ただし、購買行動のすべてがAIに置き換わったわけではないし、検索エンジンが不要になったわけでもない。AIへの「相談」という入口が増えたことで、消費者と企業の接点はむしろ複雑になっている。そうした現状と、そこから見えてくる企業側の論点を整理する。
口コミや検索からAIへ。消費者行動の変化

生成AIを検索行動の一部として使う人は、この1年余りで急速に増えている。サイバーエージェントの「GEOラボ」が、全国15〜69歳の男女9,278人を対象に2026年8月7日から10日にかけて実施した調査(調査機関はマクロミル)によると、Google検索の「AIモード」を含む生成AIの検索利用率は52.3%となり、調査を開始した2025年5月(21.3%)から約1年3カ月で31ポイント上昇した。従来型の検索エンジンの利用率は86.9%で依然として高い水準にあるが、2025年5月の91.9%からは緩やかな減少傾向にある。
世代別では、10代が80.6%、20代が61.0%と若年層の利用率が高い一方、40代でも初めて50%を超えた(50.2%)。50代は46.1%、60代は39.6%で、いずれも上昇が続いている。

検索エンジンと生成AIの両方を使っているユーザーに絞って聞くと、46.6%が「検索行動の半分以上を生成AIに切り替えた」と回答しており、これは2025年5月調査時点の30.1%から増加している。用途別に見ると、価格や特徴の比較(15.5%)、旅行の宿泊施設の比較(14.8%)、物件条件の比較(14.5%)など、比較・検討の場面での生成AI利用が目立つ。
AIの回答を見た後の行動としては、回答内のURLをクリックして詳細を調べた経験がある人が61.0%、AIにおすすめされた商品・サービスについて自分でもさらに検索した経験がある人が77.3%にのぼった。そのうえで、同調査では、AIにおすすめされたことをきっかけに実際に商品を購入・サービスを利用した経験があると答えた人が58.7%にのぼっている。これは「経験したことがあるかどうか」を尋ねたものであり、日常的に頻繁に購入しているかどうかを示す数字ではないが、AIの回答が単なる情報提供にとどまらず、消費行動に影響を与える存在になりつつあることを示す結果だ。
出典:サイバーエージェント「生成AI/AI Overviewユーザー利用実態調査」(2026年8月期)
https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=33787
相談相手がAIに。AIが導き出す答えとリスク
検索エンジンに条件を入力して比較するだけでなく、AIに目的や状況を伝えて候補を出してもらう。そうした「相談」の接点は、ECサイトだけでなく実店舗にも広がっている。ここでは3つの事例から、その変化の中身を見ていく。
【活用事例①】Amazon「Rufus」 目的を伝えて候補を絞り込む

Amazonは2024年11月7日、対話型のAIショッピングアシスタント「Rufus」のベータ版を日本の一部顧客向けに提供開始し、2025年9月2日には日本の全顧客が利用できるようにした。Amazon.co.jpの商品情報とウェブ上の情報を学習した生成AIで、スマートフォンアプリの右下、デスクトップでは左上のアイコンから起動できる。
Rufusの特徴は、キーワードを自分で考えて検索するのではなく、目的や条件を自然な言葉でAIに伝える点にある。「スムージーに必要なもの」「登山に必要な装備」といった用途別の相談のほか、「トレッキングシューズとランニングシューズ、どちらを買うべき?」といった比較の質問にも回答し、商品詳細ページでは口コミやQ&Aをもとにしたレビュー要約も表示する。
従来は「検索語を自分で考え、表示された商品を自分で比較する」という行動だったのに対し、Rufusでは「目的や条件をAIに伝え、AIが候補を整理する」という順序に変わっている。もっとも、この仕組みが広く使われていることと、消費者がAIの提案をそのまま受け入れているかどうかは別の問題であり、Rufusの回答についても常に正確とは限らないとして、Amazon自身がユーザーからの評価(サムズアップ/サムズダウン)をもとにモデルの改善を続けている。
なお、Amazonが2026年2月に発表した2025年12月期の決算資料では、Rufusは3億人超の顧客に利用され、年間換算で120億ドル近くの売上の上積みに貢献したとしている。これはAmazon全体でのグローバルな数字であり、日本国内に限った効果を示すものではない。また、Amazon本体は2026年5月13日、米国においてRufusをAlexa+と統合した「Alexa for Shopping」を発表している。この統合は米国向けの発表であり、日本向けの公式ページでは、2026年9月時点で「Rufus」の名称で案内されている。名称や体制が今後変わる可能性はあるが、目的や条件を伝えて相談するという購買体験そのものは、AIを介した接点として一定の規模で使われ始めている。
出典:About Amazon Japan「Amazonの生成AIを搭載した対話型ショッピングアシスタント Rufus(ルーファス)、日本のすべてのお客様が利用可能に」
https://www.aboutamazon.jp/news/retail/amazon-ai-shopping-assistant-rufus
出典:Amazon.com, Inc. 2025年第4四半期決算資料(SEC提出資料)
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1018724/000101872426000002/amzn-20251231xex991.htm
【活用事例②】実店舗にも広がるデジタル接客

購買行動の変化は、実店舗でも起きている。マックスバリュ関東は、田無芝久保店(東京都西東京市)と津田山店(神奈川県川崎市)に、kiwamiが開発した「xR Cast Concierge」を用いたデジタルサービスカウンターを導入した。3DCGのアバターが売り場案内などに自動応答し、自動応答できない問い合わせは専任スタッフのスマートウォッチに通知され、遠隔操作による回答や有人対応に引き継ぐ仕組みだ。津田山店には人感センサーも搭載されており、来店客を感知するとアバターが声をかける。後に、商品の売り場検索機能が追加され、開始から1週間で約200件の利用があったという。ここでのアバターの応答は、一般的なデジタルサイネージと同様の自動応答が中心で、生成AIと自然言語で対話するタイプの接客とまでは、公表資料からは確認できない。
イオンモールでは、2018年時点でティファナ・ドットコムのAI接客システム「AIさくらさん」が全国9施設・17台導入されたと発表された。施設案内に加え、おすすめ情報の提示などを自動発話で行い、来館者との新たな接点となっている。方式は異なるが、マックスバリュ関東のデジタルサービスカウンターと同様、「店員を探して聞く」という従来の接点に加えて、まずデジタル端末やAIに尋ねるという選択肢が生まれている。
人手不足への対応や省人化を目的とした導入が中心であり、案内業務の効率化という機能面では確認できる一方、こうした接客の導入自体が売上の増加や競合との差別化に直結するかどうかは、公表されている資料だけでは判断できない。
出典:kiwami「マックスバリュ、kiwamiのバーチャル店員にてデジタルサービスカウンターを追加導入!」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000048.000052694.html
出典:ASCII.jp「kiwami、マックスバリュへバーチャル店員による売場検索を開始!デジタルサービスカウンターの稼働が1.6倍に向上!」
https://ascii.jp/elem/000/004/229/4229695/
出典:ティファナ・ドットコム「イオンモールにAI接客システム『AIさくらさん』が全国9店舗、17台導入されました!」
https://www.tifana.ai/news/aikizuna-4
【リスク事例】AI予約代行サービスと、店舗側に生じた摩擦
利便性の裏側で摩擦が生じた例もある。2018年にリリースされたAI予約代行サービス「オートリザーブ(AutoReserve)」は、日本の企業ハローが運営し、累計登録者数は500万人を超える。利用者がアプリで店・日時・人数を選ぶと、電話予約のみの店舗にはAIが自動で電話をかけ、店が出られない場合は繰り返し架電することがある。利用者にとっては「自分で電話をかけなくていい」という利便性がある一方、飲食店側からは反発が起きた。2023年には、開店直後に約30分間AIからの電話が続き、着信拒否にすると回線が話し中のような状態になって一般客の電話までつながりにくくなった、という飲食店の訴えが報じられている。その後も同様の訴えは絶えておらず、2026年にはFNNプライムオンラインやITmediaが、飲食店側の「電話が鳴りやまない」という証言や、削除依頼に応じないサービス側の運営方針、「オートリザーブお断り」を掲げる店舗が出てきていることを改めて報じている。
この事例が示すのは、「AIは危険だ」という単純な結論ではない。消費者にとって便利な仕組みであっても、AIが既存のシステムに人間と同じ方法で自動的・反復的にアクセスした場合、受け手側の運用が前提としていなかった負荷が生じ得るという構造だ。飲食店の予約窓口は、もともと人間が電話を受ける前提で設計されてきた。そこにAIエージェントからのアクセスが加わったことで、想定していなかった摩擦が表面化した格好となった。
出典:ITmedia ビジネスオンライン「『誤った情報が掲載』『30分ずっと電話が鳴る』」(2023年5月)
https://www.itmedia.co.jp/business/spv/2305/18/news165.html
出典:ITmedia ビジネスオンライン「嫌がる飲食店に、AIが何度も予約の電話を…… 『オートリザーブ問題』はなぜ起きてしまったのか」(2026年7月)
https://www.itmedia.co.jp/business/spv/2607/10/news010.html
出典:FNNプライムオンライン「『電話鳴り止まない』AI予約サービス『オートリザーブ』に飲食店困惑」(2026年6月)
https://www.fnn.jp/articles/FNN/1064623
事例から見えてくる企業側の論点
ここまでの事例から見えてくるのは、デジタルシステムやAIが、購買や接客の新たな「入口」になり始めているという点だ。一方で、SNSや動画、レビュー、実店舗での確認、ブランド名を直接検索するといった従来の経路も依然として残っている。購買行動がAIへ一本化されるというより、接点の数そのものが増え、全体として複雑になっているというのが実態に近い。
こうした状況を背景に、生成AIの回答の中で自社の商品やブランドが的確に取り上げられるようにする「GEO」という考え方への関心が高まっている。ただし、生成AIがどのような基準で情報を選び、回答に引用しているかというアルゴリズムの詳細は、モデルを提供する各社から完全には公開されていない。GEOをうたう手法やサービスは数多く登場しているが、現状では、どの手法が有効なのかを一律に判断することは難しい。
その一方で、AIへの露出だけに注力するのではなく、人間が最終的に確認する際の拠り所となる一次情報や公式情報、自社ドメイン上に蓄積された商品情報を整えておくことも、別の論点として挙がっている。Amazon「Rufus」の事例が示すように、AIは商品ページやレビュー、Q&Aといった既存の情報を読み込んで回答を組み立てる。AIに見つけてもらうための対策と、人間が納得して選ぶための情報整備は、重なり合う部分はあっても同じものではない。
新しい購買行動モデル

AIが購買行動に介在するようになったことで、従来の消費者行動モデルだけでは説明しにくい変化が生じている。それを整理しようとするフレームワークも、いくつか提案され始めている。
日経BPが運営する「日経クロストレンド」は2026年4月15日、電通グループが提唱した「AISAS」を発展させたモデルとして「AICAS」を発表した。Ask(相談・質問)、Interest(興味)、Confirm/Check(確認)、Action(購買)、Share(共有)の5段階で構成され、従来の「AIDMA」や「AISAS」がAttention(注目)を起点としていたのに対し、AICASはAIへの相談・質問(Ask)を起点に置いている点が特徴だ。同社が生成AIを買い物に利用している515人を対象に実施した調査(マクロミルモニター会員、2026年2月3日〜5日実施)では、生成AIの推奨を「参考にする」と答えた人が66.2%、「提案通りに購入することが多かった」と答えた人が44.6%だった一方、提案を受けた後に検索エンジンや比較・口コミサイト、SNSなど他の媒体でも確認した人が約9割にのぼっている。
また、国内電通グループ4社(電通、電通デジタル、電通総研、電通マクロミルインサイト)は2026年9月10日、「AIJES」という新しい購買行動モデルを提唱したと発表した。生活者とAIが協働し、蓄積(Archive)、問答(Interaction)、判断(Judgment)、参加(Engagement)、評価(Score)の5つのステップを循環的に歩むモデルと説明されており、2004年に同グループが提唱した「AISAS」の発展形と位置づけられている。電通側自身も、購買行動の過渡期には「AISAS」と「AIJES」がしばらく並走すると説明しており、既存モデルを置き換える標準として提示しているわけではない。
いずれも提唱されて間もない。現時点では広く定着した標準モデルというより、AIが介在する購買行動を整理しようとする新しい試みとして捉えるのが適切だろう。
出典:日経BP「日経クロストレンド、AI時代の新たな消費者購買行動モデル『AICAS』を提唱」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000291.000041279.html
出典:電通総研「国内電通グループ、AI時代の新購買行動モデル『AIJES(アイジェス)』を提唱」
https://www.dentsusoken.com/news/release/2026/0910.html
AIが介在する購買行動をどう捉えるか
事例やモデルを踏まえたうえで、企業側に残る論点を3つに整理する。いずれも「これをすれば正解」という処方箋ではなく、自社の状況に照らして検討すべき視点として位置づけたい。
①顧客の購買行動を観察する
AIがどの程度使われ、どの場面で影響を持つかは、商品やサービスによって異なる。読売広告社(YOMIKO)が博報堂DYグループの横断的なAI専門家集団HCAI Professionalsの活動として2026年7月14日に発表した調査では、生成AIやAI検索を月1回以上利用している20〜60代を対象に、11カテゴリ別のAIの利用率(当該カテゴリの検討者のうちAIを利用した割合)と、購買への影響度が分析されている。旅行は利用率が35.3%と全カテゴリ中で最も高かったが、購買への影響度は10点満点中5.16点で平均的な水準にとどまった。一方、家電・PCは利用率29.8%に対して影響度は5.52点と全カテゴリ中で最も高く、価格や機能が複雑なことから、条件を伝えて候補をまとめさせたり、複数商品を比較させたりする使われ方が目立ったという。同調査では、購買の段階によっても差が見られた。AIが最も多く使われるのは選択肢の把握や比較検討の段階だったが、購買への影響度が最も高かったのは「何を選べばいいか分からない」という入口の段階だった。「顧客はAIを使うようになった」と一律に仮定するのではなく、自社の顧客がどの段階でAIを使い、AI以外に何を参照しているかを確認することが、まず押さえておきたい論点になる。
出典:博報堂DYホールディングス「YOMIKO、『AI検索時代の生活者行動変化に関する調査』結果を発表」
https://www.hakuhodody-holdings.co.jp/news/corporate/2026/07/6625.html
②GE固執しないOという言葉だけに
AI上での露出は新しい論点だが、前述のとおり、生成AIが情報を選ぶアルゴリズムの詳細は公開されておらず、どの手法が有効かも一律には判断できない。一次情報や公式情報、独自データ、明確な商品情報を蓄積しておくことは、AIへの対応としてだけでなく、人間が最終的に確認する際の材料としても意味を持つ。これを実施すればAIから高く評価されるという単純な因果関係として扱うのではなく、情報を整える取り組みそのものに価値があると捉えておきたい。
③AI以外の購買経路の模索
すべての購入がAI経由になるわけではない。商品やサービスによって、AIに相談する、SNSや動画で知る、レビューを見る、実店舗で確かめる、ブランド名を直接検索する、知人や専門家の推薦を参考にするなど、複数の経路が併存している。「AIに選ばれること」と「人間自身が選びたくなること」は、重なる部分はあっても必ずしも同じではない。この両面を俯瞰したうえで、自社にとってどの接点を優先するかを考える視点が求められる。
まとめ|メリットとデメリットを判断できる組織へ
AIは、企業と消費者の間に新しい情報取得・意思決定のレイヤーとして入り始めている。その結果として起きているのは、購買行動が単純になることではなく、接点が増えて複雑になることだ。Amazon「Rufus」のように相談から候補提示までを一気に担うサービスが広がる一方で、AI予約代行サービスの事例が示すように、便利さが思わぬ摩擦を生む場面もある。
企業にとって重要なのは、いま話題になっている手法を無条件に採用することではなく、自社の顧客が実際にどこで商品を知り、どこで情報を確認し、何を根拠に比較し、何を決め手に選んでいるのかを、地道に観察することだろう。GEOにせよAICASやAIJESのような新しいモデルにせよ、それぞれが購買行動の変化の一面を切り取ったものであり、唯一の正解を示しているわけではない。
こうした変化を冷静に見極めるためにも、まずは生成AIの仕組みや活用上のリスクについての基礎的な理解を、組織の中で共有しておきたい。