誰もが「AIでそれなりのもの」を作れる時代。国内最大級のクリエイティブカンパニーが示す「人とAIの共創解」
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生成AIの普及により、誰もが一定水準のビジュアルを作れるようになった現代。その一方で浮き彫りになっているのが、似通った表現が溢れ出す「表現の均質化」という課題です。
誰もが「そこそこのクオリティ」を出せる時代に、プロのクリエイティブはどのような価値を宿すべきなのか──。
この問いに挑むのが、ビジュアル制作を中心に40年以上の歴史をもつクリエイティブカンパニー、株式会社アマナです。同社は2025年11月にAI専門組織「amana AI architects(A³)」を設立。2026年2月には、生成AIと人の手仕事を高度に融合させた「VISION MOVIE」を公開し、ひとつの解を提示しました。
そこで今回は、A³プロデューサーの石丸将太氏にインタビュー。専門組織立ち上げの狙いや映像制作の舞台裏から、これからのクリエイティブとAIの新たな関係性を解き明かします。
「きれいなビジュアル」だけでは心は動かない
━━生成AIの普及で、誰もが一定水準のビジュアルを作れるようになった一方、表現が似通ってしまうという指摘もあります。長年、広告ビジュアルを手がけてきたアマナとして、この変化をどう捉えていますか?
石丸:専門知識がなくてもビジュアルを作れるようになったのは、表現の選択肢が広がる前向きな変化です。一方で、誰もがある程度のものを作れるからこそ、「何を伝えるための表現なのか」が今まで以上に問われていると感じます。
広告ビジュアルにおいて大切なのは、「見る人の感情をどう動かせるか」です。どこかで見たような均質化された表現や、ただきれいなだけの画像では、企業の想いや本当の価値までは伝わりません。
だからこそ、私たちはAIに任せきりにするのではなく、お客様との対話を通して「伝えるべき価値」を整理することを大切にしています。その価値をベースに、AIと従来の手法を掛け合わせることで、これまでにない表現や「均質化の先」に行けると考えています。
━━クライアントからプロに求められる役割や期待にはどのような変化がありますか?
石丸:ご相談の入口としては、コスト削減や制作の効率化を期待されるケースが多いです。ただ最近では、「AIで作れるか」という枠を超えて、「自社としてAIとどう向き合うべきか」という企画段階からのご相談も増えてきました。
以前は、「頭の中にあるイメージを高品質なビジュアルに仕上げること」がプロの主な役割でした。しかし今は、お客様ご自身がAIで手軽にイメージを試作できる時代です。
だからこそ、私たちには「そもそも何を伝えるべきか」「この表現で本当に意図が伝わるか」という、表現の根本的な目的を見極める役割が求められています。選択肢が無限に増えた時代だからこそ、目的に合った表現を選び抜き、その理由を納得感をもって伝えること。
そして、プロとしてのクオリティで最終形へ仕上げること。効率化を進めながらも、この両方をしっかりと果たすことに、今のプロの価値があると考えています。
AIの進化を、美意識の進化へ。アマナが今、専門組織を立ち上げた理由
━━そうした変化のなかで、アマナはAI専門組織であるA³を立ち上げました。その背景を教えてください。
石丸:AIで大量のビジュアルを短時間で作れるようになった反面、ツールや作り手によって品質にばらつきが出たり、ブランドの世界観が揺らいでしまうリスクがありました。
そうした課題に対応し、会社としての向き合い方を明確に示すため、代表の金子を中心に2025年9月ごろから構想を進め、立ち上げたのが「A³」です。現在は約16名の専任スタッフが所属しています。

私たちの役割は、単にAIで画像を作ることではありません。その企業らしさを形づくる「光・色・構図」などの特徴を整理してAIのルールに落とし込み、そこにプロの感性や判断を重ねて仕上げていく。いわば「そのブランドらしい表現をブレずに生み出し続ける仕組み」から一緒に作っていくのが、A³の主な役割です。
━━A³では、「AIの進化を、美意識の進化へ」というステートメントを掲げています。どのような思いが込められているのでしょうか?
アマナは写真を原点とする会社であり、写真は映像よりも1枚をじっくり見られる時間が長いため、制作者として「1枚に込める美意識」を追求する文化があります。
その潜在的な美意識とAIを掛け合わせることで、均一化に陥らない表現を生み出す。私たちが培ってきた美意識を、AIを使ってさらに拡張させていくという思いを込めています。

AIが得意な「4つの領域」と、人が果たすべき役割
━━出発点は人の美意識であり、AIはそれを拡張する手段になるわけですね。A³では、AIの「得意な領域」と「苦手な領域」をどのように捉えているのでしょうか?
石丸:AIが得意とする制作プロセスは、「発散・発想・定着・展開」の4つです。
圧倒的なスピードでアイデアを広げ(発散)、異質な要素を掛け合わせ(発想)、頭の中のイメージを可視化し(定着)、世界観を広げる(展開)。初期段階の試行錯誤と関係者間の認識合わせを素早く行える点が大きな強みです。

一方で、AIには人が補うべき「4つの苦手」もあります。生成ごとに細部が変わる「一貫性の欠如」、平均的な出力による「表現の均質化」、描写が崩れる「物理・論理の破綻」、そして「バイアスや偏り」です。
これらはブランド毀損や炎上リスクに直結します。だからこそ私たちは、プロセスの「最初と最後」に人が介在する設計にしています。
まず人が「何を伝えるか」という設計図を描き、AIで可能性を広げ、最後にプロの手仕事と美意識で仕上げる。この人の判断があって初めて、人の心を動かす表現になると考えています。

「VISION MOVIE」で体現した、人とAIの共創解
━━そうした「人とAIの共創」を具現化したのが、2026年2月に公開された「VISION MOVIE」です。そもそもこの映像作品でアマナは何を示そうとしたのでしょうか。実際の制作プロセスとあわせて教えてください。
石丸:VISION MOVIEは、生成AIとプロの手仕事を融合させることで、新たな映像表現と組織の思想を提示したコンセプト映像です。
AIを単なる効率化ツールではなく「表現を拡張するパートナー」と定義し、どこまでAIに任せ、どこにプロの技を介在させるべきかを証明するために制作しました。
実際に、制作では企画・画像生成・撮影・レタッチ・CG・編集という従来のワークフローの中にAIツールを組み込んでいます。全体のスタッフ数は、通常なら60人ほど関わる規模を20人前後に抑えることができ、AI活用のひとつの効果を実感しました。

その制作プロセスにおいて、特に「人の手と判断」が不可欠だったのが4つの工程です。
1つ目はプランニングです。LLM任せにすると構成が均一化しやすいため、人間が意図や骨組みをしっかり落とし込む必要がありました。

2つ目は撮影です。AIは「身体」を持たないため撮影はできません。人物の一貫性を保ち、現場で演者ならではの独創的な動きを引き出すのは人間の役割です。

3つ目はレタッチ。生成素材に残るハルシネーション(不自然な描画)や質感のブレを、プロの手作業で丁寧に修復しました。

そして4つ目がCGです。AI単体では難しい精緻なカメラワークを、ポリゴンモデルによるプリビズ(事前の映像設計)と掛け合わせることで、理想の画角を再現しました。

━━象徴的なモチーフとして登場する「透明な卵」には、どのような意味があるのでしょうか。
石丸:理由は2つあります。
1つ目は概念的な意味で、アマナの美意識とAIが交ざり合い、新しい表現が生まれる「誕生のメタファー」です。
もう1つは、広告制作における実質的な技術検証です。透明な卵は光の屈折や質感の表現が難しく、AIにおいて最も一貫性を保ちにくいオブジェクトのひとつ。
あえて難度の高いモチーフで破綻のないビジュアルを示すことで、実際のクライアントワークでも商品のディテールや「同一性」を担保できると証明したかったのです。

発想の拡張と取捨選択。試行錯誤の末に掴んだ手応え
━━制作プロセスの中で、AIだからこそ生まれた発見や変化はありましたか?
石丸:演出コンテ(映像の設計図)を作る段階で大きな変化がありました。従来は手描きのラフや写真でイメージを組み立てていましたが、AIを活用することで、初期段階から非常に豊かな世界観が立ち上がってきたのです。
言葉で説明しづらい複雑な構図や、光と人物の絡み方など、人間の頭の中だけでは出てこないアイデアが提示される。AIが広げた選択肢の中から、監督が自身の美意識に基づいて「取捨選択する」ことで、表現の幅が一気に広がると実感しました。
━━ 一方で、AIならではの課題や、それを補うための現場での工夫はありましたか?
石丸:一番苦労したのはライティング(照明)の一貫性と、生成素材のばらつきです。今回は背景合成に対応するため、グリーンバックで撮影した映像の光を後からAIで調整する手法に挑みましたが、現状のAIではカットごとの光源の向きを厳密に揃えきれません。
そうした照明の不整合や不自然な描写(ハルシネーション)をどう埋めるかが、プロの手仕事でした。アマナの強みである撮影、レタッチ、CG、音響が社内で一体となって連携できる環境を生かし、レタッチャーが細部の不自然さを手作業で補正したり、CGアセットと撮影データを空間上で連動させて緻密なカメラワークを作ったりしました。音響面でも、AIナレーションの細かなニュアンスを最終的にスタジオで調整しています。
━━公開後の反響はいかがでしたか。
石丸:「どこまでがAIで、どこからが実写かわからない」「純粋にビジュアルとしてきれい」といった声を数多くいただきました。
AIで制作されたクリエイティブが日常に溢れる中で、好意的に受け止めていただき、人とAIの共創による新しい表現の可能性を示せたことに大きな手応えを感じています。
AI活用支援からブランドの言語化まで。A³の次の展望
━━ 一連の制作を経て、AIに対する捉え方や「プロの役割」について改めて感じたことはありますか?
石丸:すべてをAIに委ねるのではなく、「人間が手綱を握ることで表現の可能性は広がる」と改めて感じましたね。
アマナにはプロのフォトグラファーやレタッチャー、CGスタッフが揃っています。社内に妥協のない「プロの目」があるからこそ、AI素材を使ってもクオリティの高いビジュアルへ昇華できる。
実は、そうした制作環境に惹かれてアマナへ移ってきた経緯もあるので、今回の挑戦を通じてその強みを改めて実感できました。
━━今後はA³として、企業のどのような課題を解決していきたいですか。
石丸:「どこまでAIに任せ、どこを人が担うべきか」という切り分けの支援に加え、制作の前段階にある「ブランドらしさの言語化」にも注力したいと考えています。
たとえば、既存のブランドガイドラインを「その企業特有の光やトーン」として整理し直し、AIが理解できるプロンプトの構文へと再構築する。そうすれば、営業担当者の資料作成からクリエイターの制作物まで、社内全体で「自社の美意識を軸にしたビジュアル」を再現できるようになります。
そのうえで高度な表現をプロが担うという役割分担を作り、安全な運用のためのワークショップやリスクマネジメントも含めて支援していきます。
━━最後に、これからAI活用に挑む企業やクリエイターへメッセージをお願いします。
石丸:体感としては、日本企業でAI活用に前向きに取り組めているのはまだ3割ほどだと感じています。だからこそ、まずはツールに触れてみること、そして社内で「一緒に試してみよう」という合意をつくることが第一歩になります。
もう一つ大切なのが、著作権やAIの仕組みといった基礎知識のアップデートです。「生成AIパスポート」のような知識体系も活用して最低限のリスク管理を理解しておけば、活用へのハードルは格段に下がります。土台を整えたうえで、恐れずに新しい表現の可能性へ一歩を踏み出してみてほしいですね。
PROFILE
AI専門組織「A³|amana AI architects」所属。2007年にピラミッドフィルムでキャリアをスタートし、広告映像のプロデューサーとして活動。2024年からAIを取り入れた制作プロデュースに取り組み、2026年にアマナへ入社。映像を中心に、グラフィック制作や、企業に向けたAIのリスクマネジメント支援も手がける。2025 JAC AWARD ベストプラクティス部門グランプリ プロデューサー部門ファイナリスト。