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大迷走の末に見つけた「現場で使えるAI」。69歳の通訳案内士が描く、インバウンドと地域の未来【Story #5】

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企業が生成AIの導入・活用を推進するなか、すべてのビジネスパーソンに求められる生成AIリスキリング。実際に生成AIを安全に活用するためのリテラシーやスキルの習得に取り組み、新たなキャリアの形成や市場価値の向上につなげたビジネスパーソンの「ストーリー」に焦点を当てたインタビュー企画をお届けします。

今回は、銀行員や日本語教師を経て、長年にわたり全国通訳案内士として訪日客を案内してきた本多充輝さんにお話を伺いました。70歳を目前に生成AIと出会い、試行錯誤を重ねながら「現場で使えるAI」を追求してきた本多さん。生成AIパスポートでの学びを経て、通訳案内士の人材育成や地域振興・インバウンド、さらにシニア世代へとAI活用の可能性を広げる、その歩みを探ります。

自分の脳の「外部メモリー」が欲しかった——70歳目前、通訳案内士と生成AIの出会い

──これまでの経歴と、現在の活動について教えてください。

本多:大学卒業後は銀行に入り、外国為替部で働いていました。その後、日本語教師を経て、2006年から全国英語通訳案内士(以下、通訳案内士)として活動し、これまでにご案内したお客様は、数千人になると思います。

現在は、通訳案内士として培ってきた経験を活かし、AIを活用した通訳案内士向けの研修に携わるほか、(株)阪急交通社地域振興部インバウンドチームのAI活用アドバイザーを務めています。生成AIを学び始めたことをきっかけに、これまでのガイド経験を、研修や地域振興・インバウンドの分野へと広げています。 

──生成AIと出会ったのは、どのようなタイミングだったのでしょうか?

本多:70歳を目前にして、これからの働き方を考え始めた頃です。通訳案内士は、とにかくよく歩く仕事なんですよ。四国の金刀比羅宮をご案内して奥社まで歩いた時には、お客様から体調を気遣われてしまい、自分の体力の衰えを実感しました。 

通訳案内士には70代、80代でも現役で活躍している方がいらっしゃいますが、体力の変化を感じ、自分も現場に立ち続けるだけではなく、ツアー造成や人材育成、教材づくりなど、「これまでの経験を活かした別の仕事も考えないといけないな」と思うようになりました。 

そんな時に生成AIと出会ったんです。最初に期待したのは、年齢とともに衰えていく自分の脳を補ってくれる「外部メモリー」になってくれるんじゃないか、ということでした。 

私の父も新しいものが好きで、70代でパソコン教室へ申し込み、90代になった今もパソコンで仕事をしています。そんな姿を見てきたので、「自分も年齢を重ねても楽しめる新しいスキルを身につけたい」という思いは、もともとあったんでしょうね。そこへ、70歳を目前にして生成AIが現れた。これはもう、私にとっては運命的な出会いだったと思っています。 

高額な教材を購入しAIを学ぶも、PCが動かなくなった——「大迷走」のAI学習

──AIを学び始めてからは、かなり試行錯誤されたそうですね。

本多:最初はChatGPTやGeminiなどを自己流で触っていたんですが、周りにAIを学んでいる人がいなくて、独学には限界があるなと感じました。それで動画教材を買ってみたものの、ITの基礎知識がある若い人向けの内容で、なかなかついていけなかったんです。 

その後、マンツーマンの講座で基礎からSNS発信、マーケティングへの応用まで学びました。基本的な知識は身についたんですが、今度は「これをどこで活かしたらいいんやろう」と迷ってしまって。高額な教材や副業系の動画、ローカルAIなど、本当にいろいろなものに手を出しました。 

「今なら割引」という言葉につられて教材を買ったら、数年前に作られたものだったとがっかりしたことも。重いツールを格安のPCに入れたら、今度はPCが動かなくなってしまって。そこで初めて、AIを動かすにはPCの容量や性能も大事なんだと身をもって知りました。今振り返ると、かなり高い授業料を払いましたね。 

──迷走の末に、自分なりのAI活用が見えてきたきっかけは何だったのでしょうか?

本多:いろいろ手を出しているうちに、「全部やろうとするからあかんのや」と気づいたんです。自分がこれまでやってきたのは観光やガイドの仕事です。それなら、自分の強みがあるインバウンドの分野にAIを掛け合わせよう、と方向を絞りました。 

そこからは、写真と地図という旅の必須のアプリと連携できるGoogleのAIツールを中心に学ぶようになって、Geminiとは1,000時間以上やり取りしました。自分が理解できていないことは人にも教えられないと思っていたので、わからないことがあれば、納得できるまで何度も聞く。その繰り返しです。AIへの聞き方自体もわからないところからのスタートだったので、より時間がかかったように思います。 

迷走した時間も長かったですが、最終的には「新しいAIを何でも追いかける」のではなく、「自分がこれまで培ってきた経験にAIをどう活かすか」を考えることが大事なんだと気づきました。 

1956年のダートマス会議に感じた「運命」——生成AIパスポートで得た学び

──生成AIパスポートを取得しようと思ったきっかけを教えてください。

本多:AIを一通り学んだと感じた後、家族や通訳案内士の仲間にAIのことを教えようとしたんですが、なかなか信用してもらえなかったんです。「理系でもエンジニアでもないのに、AIを教えられるの?」という反応もあって。

それなら、自分にもAIについてきちんと学んだ証明が必要だと思いました。ただ、エンジニア向けの資格は難しいですし、自分の仕事にも合わない。そこでAIに「自分に合う資格はない?」と相談したところ、生成AIパスポートを教えてもらったんです。内容を見て、これなら自分が学びたいことと合っていると思い、受験を決めました。

──実際に勉強してみて、特に印象に残ったことは何でしたか?

本多:一番印象に残ったのは、テキストの最初に出てきた1956年のダートマス会議です。AI研究の出発点のひとつとされる出来事ですが、AIが自分と同学年だという事に驚き、「これは運命やな」と感じました。 

それまで私は、AIが人間のように「考えて」答えていると思っていたんです。でも、文脈をもとに次に続く言葉などを確率的に予測しながら文章をつくっている仕組みを知って、ハルシネーションが起きる理由も腑に落ちました。 

ほかにも、著作権やセキュリティなど、AIを使ううえで必要なリテラシーに関する内容が充実していたのもよかったですね。私は元銀行員なので、もともとセキュリティを重視していましたし、そうした内容まで学べたのは大きかったです。プロンプトの使い方だけではなく、AIの歴史や仕組み、法律まで幅広く学べたのは、想像していた以上に大きな収穫でした。 

東福寺を「二条城の台所」と回答?——現場で学んだAIとの付き合い方

──通訳案内士の現場では、生成AIをどのように活用していますか?

本多:現場では主に、その場で起きた問題の解決、観光地や研修に必要な知識の整理、お客様向けの資料づくりの3つにAIを活用しています。 

通訳案内士は屋外を移動しながら仕事をするので、パソコンの前でじっくり使うというより、スマートフォンですぐ使えることが大事なんです。主にGeminiやGemini Notebook(旧NotebookLM)、Googleマップを使っていて、カメラ・ライブカメラ・音声入も活用しています。 

また、海外からのお客様をご案内していると、自分の専門ではない言語を話す方もいらっしゃいます。そういう時も、AIを使えばお客様の母国語に合わせた資料を用意しやすくなる。コミュニケーションの幅が広がったと感じています。 

──実際に使うなかで、AIの間違いや意外な反応に遭遇したこともありますか?

本多:もちろんあります。通訳案内士向けの研修で東福寺へ行き、スマートフォンのカメラを使ってAIにいろいろ質問してみたんです。東司(とうす)とよばれる禅寺のトイレを見せたら「洗面台のシンクです」と答えたり、東司の建物を見せたら「二条城の台所です」と答えたりしました。  

「どうして二条城だと思ったの?」と聞いたら、屋根の勾配が似ているからだと説明するんです。私はガイドなので間違いだと気づけますが、もっともらしく答えるところがAIのおもしろさでもあるなと思いました。 

受講生がAIに「〇〇ですか?」と入力して質問するつもりが「〇〇どすか?」と打ち込んでしまったことがありました。するとAIもそれに乗っかって、京都弁で返してきたんです。こういう予想外の反応も、実際に使ってみるとおもしろいですね。 

「魚をあげるのではなく、釣り方を教える」——現場のAI活用を地域へ

──現在は、AI活用を地域振興やインバウンドにも広げているとお聞きしました。どのようなことに取り組み、今後どんな変化を生み出したいと考えていますか? 

本多:現在、(株)阪急交通社地域振興部インバウンドチームのAI活用アドバイザーとして関わっています。そのなかで大切にしているのは、「徹底した現場主義」です。20年来、インバウンドの現場を共に経験してきたディレクターの方やチームのスタッフの皆様と一緒に取り組んでいるので、実際の現場を知っていることが大きな強みになっています。 

目標にしているのは、地域の人たちが豊かになるインバウンドの導入と構築のお手伝いです。地域の個人商店さん、農家さん、漁師さんなど地域に根付く人たちに活気と元気をあたえられないと、真の地域振興にならないと思っています。

AIを使って地域振興部側の業務効率化・コンテンツ作りや発信を高速化するだけでなく、地方自治体の方がAIを使って自ら地元の活性化を図っていけるようなお手伝いができたらいいなと思っています。

「魚をあげるのではなく、魚の釣り方を教える」。そんな形で、地域の人たちがAIを使いながら自分たちで動いていける仕組みをつくっていきたいですね。 

AIにはない「人生の経験」がある——シニアへつなぐ、次の挑戦

──シニアへのAI普及にも可能性を感じているそうですね。

本多:きっかけは、7月に生涯の大親友を亡くしたことでした。その親友は、入院先からもずっと「退院したらAIを教えて」と言ってくれてたのですが、それを叶えることができませんでした。それがとても心残りで、供養と思い、お盆に彼女のご主人様やお友達にAIを教えさせてもらったんです。すると、今までAIに全く無縁だった同世代の方たちがすごく喜んで楽しんでくれて、AIがシニアの生活を豊かにする可能性を確信しました。

シニアの方たちは、インターネット上やAIにはまだ十分に反映されていない人生経験や知識をたくさん持っています。長年仕事をしてきた人なら、その人にしかない知見やノウハウもある。そうした経験を持つシニアがAIを使うことで、これまで表に出ていなかった知識を形にしたり、新しい形で活かしたりできるんじゃないかと思うんです。これからは、そうした可能性をもっと広げていきたいですね。 

──生成AIパスポートの取得や生成AIリスキリングを考えている人へ、伝えたいことはありますか?

本多:まず、生成AIパスポートは、AIに関わる人にとって「自動車の普通免許」のようなものだと思っています。AIを仕事で使うなら、操作方法だけではなく、著作権やセキュリティなどの知識も持っておいたほうがいいですよね。それを学ぶことができるのが生成AIパスポートです。

生成AIパスポートの取得も生成AIリスキリングも、「今度やろう」「後で学ぼう」と考えるより、まず始めてみたらいいと思います。私も勉強していてわからないことがあれば、横にスマートフォンやパソコンを置いて、AIに何度も聞きました。「小学生でもわかるように教えて」「幼稚園児でもわかるように教えて」、最後には「宇宙一わかりやすく教えて」と聞いたこともあります。

わからなければ、わかるまでAIに聞けばいいんです。完璧に準備してから始めるのではなく、まず一歩踏み出して、AIを活用しながら学んでいけばいいと思います。

PROFILE

Mickey HONDA

同志社大学経済学部卒。富士銀行(現みずほ銀行)大阪支店外国為替部勤務・日本語教師を経て2006年より全国英語通訳案内士として海外からのお客様に日本各地を案内。2026年3月より通訳案内士特化型AI研修講師、2026年6月阪急交通社地域振興部インバウンドチームAI活用アドバイザーに就任。2026年にWoman AI Award 2026リスタート賞を受賞し、2026年9月Woman AI Updateに登壇。