生成AI社内活用率:90%超えのSALES ROBOTICS~組織変革と人材育成のキーワードは、「意識化」と「問いを立てる力」

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多くの企業が、生成AIを用いた業務効率化や新規事業創出に取り組む一方、「どうやって社内浸透させるか」「必要な人材をどう育成するか」という悩みを抱えています。そんな中で、インサイドセールス支援やコールセンター・カスタマーサクセス支援を行うSALES ROBOTICS株式会社では、生成AIの社内活用率が1年で90%超えを実現。
一般的な企業の生成AI活用率の平均は、10~30%程度と言われている中、SALES ROBOTICS株式会社は、どのような組織変革と人材育成を行い、成果を上げたのか。業務効率だけでなく、業務の質も意識しながら取り組んだ「地に足をつけた生成AI定着施策」について、AI Innovation室の室長 高木 康介氏にお話を伺いました。同社の生成AI基礎スキル研修を支援したCynthialy株式会社 CEOの國本とCCOの小澤が、組織変革の成功に向けたヒントを探ります。
※本記事は、2025年1月30日に開催されたウェビナー「生成AIで加速する組織変革」でのトークセッションの内容を抜粋・編集したものです。
導入は「意識化」から。AI推進メンバーには、現場の社員を参画させた
小澤:生成AIの定着で頭を抱える企業が多い中、90%超えという素晴らしい生成AI活用率ですね。まず、どのような視点で導入を決めたのでしょうか?
高木:当社の事業であるインサイドセールスやコールセンターと、生成AIの相性は非常に良いことが分かっており、生成AIを使いこなせないと置いていかれるリスクを感じていました。生成AIの導入・人材育成の両輪で、事業のモデルチェンジを目指すというのが導入の視点です。
導入にあたっては、3段階のステップを設定しました。ステップ1は「意識化」、ステップ2は「導入・拡張」、ステップ3は「価値改革」であり、現在はステップ2の段階ですね。初期段階では、色々と試行錯誤をしながら、何よりも「意識化」を重要視していました。生成AIの普及によって仕事がなくなるのではという懸念や、そもそも生成AIで何ができるかなど、さまざまな疑問や不安が当初はありましたからね。
小澤:生成AIは従来のDXツールと違って、mustではなくwantのツールであるがゆえに、文化やマインドが大事になりますよね。具体的に、ステップ1の「意識化」では、どのような施策を行いましたか?
高木:生成AI推進メンバー選定と基礎スキル研修、月1回の全社会議にて、早い段階から生成AIに関する情報発信に注力するという3つの施策を行いました。研修と同じぐらい、日々のコミュニケーションの中で、「生成AI」という言葉をいかに浸透させるかが重要だと考えたためです。
小澤:では、まず1つめの推進メンバー選定において、意識したポイントを教えてください。
高木:最も重要視したのは、事業部門の現場メンバーを入れることです。生成AI推進の専任ではなく、本来の業務をこなしながら参画するという体制です。やはり、実際に使うのは現場であり、現場の意識変革が重要ですからね。チームに参画したいという意欲的な人材を募った結果、若手メンバーで構成されています。
小澤:たしかに一般的には、情報システム部やDX推進部だけで旗振りを行ってしまいますよね。具体的に、メンバーをどのように巻き込んでいるのでしょうか?
高木:現在のステップ2「導入・拡張」では、要件定義を考える段階からメンバーも同席してもらい議論しています。そして、これは個人の「ミッション」だと、きちんと認識した状態で動いてもらっています。
國本:やはり重要なのは、責任とKPIを明確にすることですよね。多くの企業では、生成AI推進が日常業務の後手に回りがちですが、真剣に取り組む組織は必ず専門的な推進チームを立ち上げていると私も感じます。
業務改善プランにまで落とし込む。トレンドに飛びつく前に、基礎データとROIが重要である
小澤:次に、2つめの施策である生成AI基礎スキル研修についてはどう対策されましたか?
高木:当社は生成AI専業企業ではないため、社員の生成AIに対する基本的な知識やスキルが不足していました。まず、推進メンバーに生成AIの基本的な考え方を習得してもらうために、Cynthialy株式会社の「AI Performer」を導入。プロンプトの基礎技術だけでなく、実際の業務で、生成AIをどう活用し改善していくかについても議論を交わしました。
國本:現在のトレンドは単発の研修ではあるのですが、当社は、複数回にわたる研修を実施しています。単に技術を学ぶだけでなく、業務への落とし込みが最も重要なんですよね。業務の中で具体的に何に使えるのか、リスト化することが不可欠です。また参加者に、「自分ごと」として、生成AIをどう活用するかを宣言をしてもらったことが、大きな意味を持ったと感じています。
高木:業務改善プランまで落とし込んだことは、非常に有効でした。具体的には、まず、社内で業務フローを徹底的に洗い出し、各工程にどれくらい時間がかかっているかを分析しました。単純にAI化するのではなく、業務の性質がどう変わり、お客様への価値にどうつながるかも議論しましたね。
小澤:この業務フローのデータがあることで、今後、トレンドのAIエージェントを使う場合も非常に良いですね。やはり、データや業務フローなどといった基礎の部分が最も重要であるものの、多くの企業は、目新しいAIトレンドに飛びつきがちと感じています。
國本:ROI(投資収益率)の観点も重要ですね。今回、業務の棚卸しを行い、プロンプトの工夫によってどの程度業務が削減できるかを具体的に落とし込み、発表もしていただきました。一般的には、あまりROIが高くないところに生成AIを使いがちだったりするのですが、SALES ROBOTICS様の取り組みは業務の全体感が分かり、効果の高い領域を見極めるにあたっても素晴らしいですね。
生成AI導入の目的を伝え続け、BPO企業の風土を変えていく
小澤:では、3つめの施策である全社会議でのアプローチにも関わりますが、組織に対してどう働きかけをしたのか教えてください。
高木:当社が生成AIを活用する本来の目的は、「目の前の顧客に向き合う時間を増やすこと」です。日本の営業パーソンが顧客に向き合う時間は15〜20%程度である一方、アメリカは50%と言われています。営業パーソンも過去数年で20万人以上減少している中で、事務作業や調整に追われ、本来時間をかけるべき「お客様との対話時間」が減っているのが現状です。当社は生成AIを導入して社内リソースを開放することで、お客様との時間を取り戻したいと考えており、この目的を毎回全社会議で伝え続け、共通認識を醸成しています。
國本:社員目線からみた生成AIの課題は、生成AIで生産性を上げても、その後の時間の使い方が不明確なことなんですよね。例えば、40時間の業務を8時間に短縮できる人もいますが、評価は変わらず、逆にできる人に仕事が溜まるだけ。従業員の余った時間をどう活用するかを、経営側の評価制度とセットで考えることが重要なポイントだと考えます。
高木:特に当社のようなBPO企業は、オペレーションの安定性と品質に重点を置くことが多く、変化や改善への思考が働きにくいという問題が起こりがちです。一方で、めまぐるしく変化し続ける現代においては、「変化」という言葉を組織に刷り込み、生成AIを使って風土を変えていくことが必要であると考えています。
小澤:文化や組織に対するアプローチは、実際はかなりハードルが高いかと思いますが、いかがでしょうか?
高木:当社はすでに生成AIの活用率が90%を超えているので、多くの社員に生成AIの可能性を感じてもらうことができています。例えばマナーモニタリングにおいて、人が行っていた時は40分かかっていた作業が、生成AIにより10分に短縮され、「できなかったことができるようになった」「変化した」ことが証明されています。
今後も、このような変化をどう作っていくかがポイントだと感じています。その際、事業ドメインの知識を持つ現場の人が最も重要であり、生成AIチームでサポートしながら、業務改善や付加価値創出に繋げていけたらと思っています。
「問い」を立てる力が、企業戦略においてのキーポイント
小澤:これまでのお話をお聞きし、生成AIは、「人や組織の在り方を考えるきっかけ」になる気がしています。
國本:生成AIの活用度は、本当に人それぞれ。SALES ROBOTICS様のように、変化に対応し、「問い」を立てられる組織は強い。逆に、生成AIの導入によって、今後なくなってしまう事業や企業も多く出てきますが、これはAIが悪いのではなく、「問い」を立てる力や社員のマインドセットが問題だったりしますね。企業戦略の最重要ポイントは、いかに人々の考え方を変えられるかにかかっていると思います。
小澤:これまでのDXは、傷を修復する絆創膏的なアプローチでしたが、今は企業体質そのものを変革する必要があるということですね。では、生成AIを使う側のマインドセットについてもお聞きしてよろしいですか?
高木:ピラミッドで示すと、最も基礎になるのは学び続けるマインドセットであり、その上に、営業といった自分の仕事のスキル。さらにその上に、業務を改善するスキル、つまり「問い」を立てる力があると考えています。生成AIのスキルというのは、ピラミッドでいうと頂点の部分なのかなと。
生成AIのプロンプトは既に型が定まりつつあります。新しいツールが出るたびに飛びつくだけだと、「問い」を立てる力がないため、組織に定着せずに終わってしまうと思います。
國本:おっしゃる通り、「問い」の力を高度化しないと、高性能なAIも十分に活用できません。ChatGPTのような高度な生成AIでも、質の高い問いがなければ真価を発揮できないですからね。
小澤:結局のところ、自分の「問い」の力、特に批判的手法や思考が、これからますます重要になってきそうですね。最後に、2025年における社員への育成について教えてください。
高木:当社では、生成AIパスポート資格取得を全員必須にしています。ある程度のリテラシーをつけた後、段階別に、基礎研修やプロンプト応用、業務分析などのステップを用意しています。
國本:生成AIスキルは、人により本当にバラバラで、得意な方だとアプリ構築も余裕でできる一方、ほとんど使ったことがない方もいる。当社では、約40分のテストを受講いただくことで、個人や組織の生成AIレベルを数値化できるアセスメントを用意しています。数値化されることでレベル別のアプローチが可能となり、組織の底上げにつながるのではと考えています。
小澤:まずは健康診断を行い、課題を発見する。課題に対する処方箋はできているので、処方箋を活用していったらよい、ということですね。ありがとうございました。
Writer:國本 知里
PROFILE

一般社団法人生成AI活用普及協会 常任協議員/Cynthialy株式会社 代表取締役
早稲⽥⼤学⼤学院卒業後、SAP・外資ITベンチャー・AI スタートアップにてSaaS・AI領域の大手向けコンサルティング営業・事業開発に従事。その後、1 社創業し AI ・DX特化ハイクラスエージェントを⽴ち上げ等。2022 年に Cynthialyを創業し、企業向け生成AI人材育成・導入コンサルティング・開発支援等を展開。女性AIリーダーコミュニティ「Women AI Initiative」創設。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。「ビジネスパーソンのためのChatGPT活用大全」「クリエイターのためのChatGPT活用大全」監修。Business Insider「BEYOND MILLENNIALS 2024」 受賞。