敵対的生成ネットワーク(GAN)|メリット・デメリットや活用方法について【徹底解説】
INDEX
近年、身近にAI技術に触れることができる機会が増えてきました。人間のような自然な対話を行うチャットAIや、画像を自動生成する画像生成AIなどを使ってみたことがある方も多いでしょう。
そんなAI技術を支える生成モデルである「敵対的生成ネットワーク(GAN)」が注目を集めています。
GANを使用することでさらに高度な画像生成を行ったり、他の技術と組み合わせたりしてさらにAIを幅広く活用できるのです。
この記事では、敵対的生成ネットワーク(GAN)に興味がある方のために、そのメリット・デメリット・活用方法などについて解説していきます。
敵対的生成ネットワーク(GAN)とは?
敵対的生成ネットワーク(GAN)はAIアルゴリズムの1つで、競合する2つのニューラルネットワークシステムを競い合わせることでデータから特徴を学習する手法です。
ごく簡単に説明すると、本物に近い画像を生成するGenerator(生成器)と、本物かGeneratorが作った偽物かを見破るDiscriminator(識別器)が互いに競い合うことで学習を行います。
この手法によって実在しない画像を生成したり、既存の画像を変換したりすることができるのです。
では、このGANを使用することで具体的にどのようなメリットが得られるか見ていきましょう。あわせてデメリットも一緒に確認していきます。
GANのメリット
まずGANを利用する大きなメリットとして挙げられるのは、画像生成において従来のAI技術に比べて解像度や画質が高い画像を生成できるという点です。
文章で説明された特徴を反映した画像を生成することもでき、GANを活用することで画像処理がますます便利になることが期待できます。
画像の品質向上だけでなく、実在しないデータを生成するというGANの特徴を他の技術と組み合わせることでさらに幅広い分野での活用も可能です。
また、機械学習モデルとしてのGANのメリットとして、AIを学習させる教師データが不要な「教師なし学習」が可能であることが挙げられます。
教師なし学習では、正解を判断する教師ラベル付きデータを与えなくてもAIが自ら精度を高めてくれるため、学習のためのデータを大量に用意する労力を省くことができます。
GANのデメリット
GANは革新的で便利な技術ですが、いくつかのデメリットもあります。
まず、GANが生成したデータの評価が主観に頼るしかなく、生成されたデータがより本物らしいかを正確に数値化することが困難であることです。
つまり、生成された画像の精度はそれを見た人が本物らしいと思うかどうかでしか判断できず、誰が見ても正解だと言える画像を生成するのは難しいのです。
また、現状のGANの学習には動作の不具合が多いことも懸念点として挙げられます。
学習初期の段階で学習効果が十分得られずにAIの学習が進まない状況になる「勾配消失問題」や、AIが特定の特徴を持ったデータしか生成しなくなる「モード崩壊」の改善が課題とされています。
GANの活用方法
GANで行えるのは、高品質な画像を生成するだけではありません。
様々な技術と併用したり、特定の用途や目的に合わせて調整されたGANを利用したりすることで、さらに多くの場面で活用することができます。
ここでは、GANを使うことでどのようなことに役立てられるか見ていきましょう。
デザインの作成
GANを使用することで、デザインの作成はさらに効率的になり表現の幅を広げることができます。
例えば、自動描画で大量のロゴパターンを作成できるため、商品デザインやWebデザインではより素早く幅広い表現が実現できます。
GANを使って実在しない画像を生成したり、ある画像の雰囲気を全く異なるものに変換したりできるのも、デザイン作成においては大きな助けとなるでしょう。
デザインに使用したい画像があるのに、解像度が低くて困ったことはないでしょうか。そんな時には、GANを使用すれば低画質な画像を高画質に変換することもできます。
これは受け取った低画質の画像を元により高画質な画像を推測する学習を繰り返すことで、より高解像度の画像生成を実現しています。
画像生成
画像生成技術は、AI技術の中でも近年特に注目を集めている分野です。
GANでは、受け取ったテキストを元に画像を生成することができます。例えば「犬」というテキストを与えると、実在しない犬の画像が生成されるのです。
もちろん、より複雑なテキストから画像を生成することもできます。最初は上手く生成されなくても、学習を繰り返すことでより本物らしい画像を出力できるようになるでしょう。
架空の人物の顔も生成可能で、まるで実際に存在するような人の顔の画像を生成することも可能です。
テキストの内容に沿って実在しない人物・物体・景色を生み出すことができるため、マーケティングや創作の場面で伝えたいイメージを視覚化するのにも役立つでしょう。
音声生成
GANはオーディオや音声処理の分野でも活用されています。
テキストから音声への合成・音声変換・音声強調などに利用され、新しい音声サンプルを生成することも可能です。
GANによる音声合成を使用して、人間の話し声・ドラムサウンドなどの音声を生成することもできます。
また、GANを活用することで聞き取れないほどの弱い音声をはっきりと聞こえる声に変換したり、ある言語のネイティブでない人の発音を修正したりすることもできるでしょう。
自然言語処理
人間が使う言語を機械で処理して自然な対話や文章の生成を行う自然言語処理の分野でも、GANは活用されています。
自然言語処理において注目されているのは、seqGAN(Sequence GAN)というGANから派生した技術です。
GANは連続データである画像データの扱いを得意としていますが、seqGANは文章データのような離散データを処理することができます。
また、データの順序が重要な意味を持つ文章を処理するために時系列的なデータも扱えます。これにより出力結果だけでなく中間時点でのデータ評価を行えるのも特徴です。
seqGANを使用することで、スピーチや漢詩を実際の人間が作成するのと同じくらい自然かつ高いクオリティで生成することができるのです。
ドメイン適応
GANの生成モデルはAIの学習手法の1つであるドメイン適応(転移学習)にも用いられています。
AIの機械学習における教師あり学習では、学習を行うために1つ1つのデータに対して正解であることを示す膨大な量の教師ラベルが必要です。
教師ラベルの収集には労力や費用を要することが多いため、あるデータセットのラベルの集まり(ソースドメイン)を他のドメイン(ターゲットドメイン)で流用するためにドメイン適応が使われるのです。
しかし、ドメイン適用にはソースドメインとターゲットドメインの特徴が大きく異なると上手く学習できない、ドメインシフトという問題があります。
そこでGANの生成モデルをドメイン適用に活用することで、ソースドメインとターゲットドメインの特徴に違いがあってもより効率的に学習を行うことが可能となります。
データ拡張
GANの画像生成により、工場の製造ラインなどで行われる外観検査で使用するAIの学習データを拡張し、学習を一層効率的に進めることができます。
外観検査でAI学習を利用するためには大量の正常画像データと欠陥画像データが必要です。
欠陥画像データの収集は困難な場合が多いのですが、GANの画像生成を使ったデータ拡張手法を利用することでデータセットの属性を増やすことが可能となるのです。
また、AIによる対話制御において、ユーザの発言の意図を汲み取るための学習に使用する訓練データの拡張もGANを用いて行うことができます。
GANにより拡張されたデータで訓練を行うことで、対話の性能を向上させることが期待できます。
ゲーム開発
ゲーム開発においてもGANの活用が進んでいます。
GANにより、実在しない人物やCGの生成が容易になってきました。これを活用することで、例えば新しいキャラクターや風景画像を低コストで生み出すことが可能です。
いわゆるオープンワールドのような膨大なデータを必要とするゲームの開発も、GANの活用でより自動化・効率化が進むことでしょう。
一方、GameGANと名付けられたGANの派生技術を使ったゲーム生成技術も登場しています。
大量のゲームのプレイ動画とゲーム操作のキー入力をGameGANに学習させることで、既存のゲームエンジンを使わずにプレイ可能なゲームを生成できる技術として注目を集めています。
医療画像処理
GANは、医療分野における様々な画像処理においても活用されています。
例えば、医療用画像で血管や臓器などの輪郭であるエッジを検出したり、明るさを調整して見やすくしたりしてより詳細な診断を行えるのです。
また、AIでMRIやレントゲンの画像を分析して異常を検出するためには大量の学習データが必要ですが、そのデータ収集は困難な場合が多いです。
そこでGANによって本物に近い医用画像を生成することにより必要なデータセットを効率よく生成でき、診断の精度向上を見込むことができます。
アニメーションとVFX
GANが持つ生成スキームを活用すれば、様々な面からアニメーションやVFXの制作を効率化することができます。
例を挙げると、画像を任意の画風に変換したり、与えた線画から人間が手描きで仕上げたような画像を生成したりすることも簡単にできます。
脚本を読み込ませてそのストーリーを分析し、必要なキーとなる画像とその間を埋める画像を生成することでアニメーションを作り出すこともできるでしょう。
また、実際には実現できない画面効果を実現するVFX(Visual Effects)においても、実在しない画像や視覚効果を生み出せるGANの生成技術の活用が期待されています。
GANの種類
GANは2014年に初めて論文で発表されてから多くの研究者がその生成モデルに可能性を見出し、研究の対象としてきました。
その結果、数多くのGANから派生した生成モデルが発表されています。
ここでは、その中でも代表的なものであるCGAN・DCGAN・StyleGANについて解説していきましょう。
CGAN
CGANは「Conditional GAN」の略で「条件付きGAN」とも呼ばれ、通常のGANに比べ条件を付けて画像を生成する場合に使用します。
通常のGANでは、Generator(生成器)が、用意したデータセットに似たノイズ(乱数)を生成して画像を生成します。
CGANでは、そのノイズから生成されるデータにタグ・ラベル・画像などの条件情報を与えることで、条件に沿った特定の属性のデータを生成できるのです。
例えば、条件として「猫」のラベルを付加することで、Generatorはノイズから猫の画像を生成するようになります。
この生成データを本物かどうか判定するDiscriminator(識別器)も、ラベルが一致するかどうかを判断材料に加えるのです。
DCGAN
DCGANはGANから派生した生成モデルの中でも特に画像の生成に活用されている技術です。
通常のGANではGeneratorとDiscriminatorにニューラルネットワークを使い、入力データをシンプルに伝播させる全結合層が用いられます。
一方DCGANでは畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を適用して、データの特徴を抽出する畳み込み層・逆畳み込み層が使われるのです。
この手法により、DCGANで生成される画像はGANで生成したものに比べてよりノイズが少なく高精細なものとなります。
StyleGAN
StyleGANはより高解像度でリアリティの高い画像を生成するGANの一種で、実際の人物や風景を写真で撮影したようなリアルな画像を生成することが可能です。
StyleGANでは、より簡単な低解像度の画像から学習を始めて高い解像度に対応する層を追加しながら学習を繰り返すことで、最終的に高解像度の画像を生成します。
StyleGANで生成された画像は非常に現実味にあふれており、架空の人物の顔画像も実際に存在するとしか思えないクオリティで生み出します。
GANの学習の仕組み
GANの学習は、Generator(生成器)とDiscriminator(識別器)という2つの要素が互いに競い合いながら行われます。
学習の目的はGeneratorが生成する偽物が、Discriminatorが本物と区別できないほどのリアルなデータを生成することです。
そもそも「敵対的生成ネットワーク」という名称は、GeneratorとDiscriminatorが敵対するような役割を担って学習を行うことが由来です。
ここでは、GeneratorとDiscriminatorそれぞれの動きに注目してGANの学習の仕組みを解説します。
Generator
Generatorは、与えられたノイズ(乱数)を受け取り、それに基づいて新しい画像データを生成します。
与えられるノイズにはランダム性があるため、生成するたびに異なるデータが生成されます。
Generatorの目的は本物に限りなく近い画像を生成することです。
しかし、本物に近い画像の生成を目指しはしますが、Generatorが生成したものはあくまで偽物であるということがポイントです。
GeneratorはDiscriminatorに偽物と見破られない画像の生成を目指して学習を進めていきます。
Discriminator
Discriminatorは入力されたデータが、Generatorが生成した偽物か、それとも訓練データとして用意された本物かを判定します。
Discriminatorに本物であると判定されるために、Generatorは精度を向上させて、より本物と見分けがつかない偽物を生成できるようになります。
これがGANの基本的な学習の仕組みです。
このシンプルな学習の仕組みに様々な技術が融合し、CGAN・DCGAN・StyleGANのような様々なGANの派生モデルが誕生しているのです。
GANの将来性
GANが得意とする画像処理においては、これからも一層レベルの高い画像生成が可能となるでしょう。
GANの利用が普及し、本物のようでありながら実在しない画像を見かけることが一般的になれば、日頃の生活の中でも偽物の画像に騙されないように気を付ける必要が出てくるかもしれません。
それほどに高クオリティの画像を生み出すGANは、今後もアニメーション・ゲーム・映画などのクリエイティブな制作現場で効率化や作品の品質アップに大いに役立つでしょう。
また、GANはその学習モデルの柔軟性の高さから、これからさらに多様な派生モデルが登場して社会やビジネスに役立つ技術として広まっていくと期待されています。
まとめ
この記事では、近年注目を集めているAIの生成モデルである敵対的生成ネットワーク(GAN)について詳しく解説しました。
最近では手軽に使えるようになってきたAI画像生成アプリなども、見えないところでGANのようなAI生成技術に支えられています。
GANという名前には聞きなじみがなかったかもしれませんが、偽物を見破ることで学習するというユニークな手法に面白さを感じた方もいるのではないでしょうか。
もし興味を持ったら、GANだけでなく他の最新のAI技術がどんな特徴を持っていて、どのようなことができるのかをチェックしてみてください。
AI技術により親しみが湧き、その結果としてAIへの理解が深まってAI技術をさらに活用できるようになることでしょう。
さらに、今注目を集める生成AIリスキリングの第一歩を。生成AIパスポートとは?
生成AIパスポートは、一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)が提供する、AI初心者のために誕生した、生成AIリスクを予防する資格試験です。AIを活用したコンテンツ生成の具体的な方法や事例に加え、企業のコンプライアンスに関わる個人情報保護、著作権侵害、商用利用可否といった注意点などを学ぶことができます。
⽣成AIの台頭により、AIはエンジニアやデータサイエンティストといった技術職の方々だけではなく誰もがAIを使えるようになりました。今、私たちがインターネットを当たり前に活用していることと同様に、誰もが生成AIを当たり前に活用する未来が訪れるでしょう。
そのような社会では、採用や取引の場面で、生成AIを安全に活用できる企業・人材であることが選ばれる前提条件になり「生成AIレベルの証明」が求められることが予測できます。生成AIパスポート試験に合格すると、合格証書が発行されるため、自身が生成AIを安全に活用するためのリテラシーを有する人材であることを、客観的な評価として可視化することが可能です。
ぜひあなたも生成AIレベルを証明し「生成AI人材」に仲間入りしましょう!