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生成AIは「第5の経営資源」。1.1万人の大規模受験に挑んだ、エクシオグループの全社AI変革

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生成AIの企業導入は次のフェーズへと進み、経営の関心は「ツールの選定」から「全社的な活用」へとシフトしています。これからの鍵を握るのは、現場の日常業務への本格的な組み込みと、組織的なAIスキルの底上げです。

こうしたなか、情報通信や社会インフラの構築を70年以上にわたり担ってきたエクシオグループが、グループ136社・約1万1000名という異例の規模で「生成AIパスポート」の団体受験に踏み切りました。

グループ従業員1万7751名(2026年3月31日時点)を擁する同グループは、なぜ全社的なAIリテラシー教育を経営の最重要課題に据えたのか。「生成AIはヒト・モノ・カネ・情報に続く“第5の経営資源”」と語る梶村啓吾社長に、大規模受験に込めた狙いや、人とAIが協調する未来の組織像について話を伺いました。

「つなぐ力」で社会を支える。生成AI普及を担うインフラ企業の責任

──まずは、エクシオグループの事業概要から教えてください。

梶村:エクシオグループは1954年に創業し、現在は従業員数1万7751名、グループ会社136社を擁する企業グループです。「通信インフラ」「社会インフラ」「システムソリューション」の3大事業を幅広く展開する、総合エンジニアリングカンパニーとして歩んできました。

私たちは「“つなぐ力”で創れ、未来の“あたりまえ”を。」というグループパーパスのもと、人々の暮らしや社会活動を支えるさまざまなインフラの維持・高度化に貢献しています。昨今話題の生成AIの面でいえば、モバイルネットワークや高速インターネット、AIデータセンターといった、現代社会に欠かせない情報通信インフラの構築工事を通じて、その普及を物理的に支える役割を担っています。

ちなみに「エクシオ」という社名はラテン語に由来しており、「自らの殻を破り、常に外向きに挑戦する決意」という思いを込めました。既存の枠組みを超えて、あらゆるインフラの価値創造企業へと進化していく。それが私たちの目指す姿です。

──生成AIの普及をインフラから支える立場として、この技術がもたらす可能性や社会への影響をどう捉えていますか。

生成AIは、社会や産業構造を根本から変える革命的な技術です。あらゆる産業における業務効率化や人手不足の解消、さらには新しい価値の創造など、これまでにない地殻変動をもたらすと確信しています。この変革を支える通信やデータセンターなどのインフラ構築を担う身として、私たちは非常に大きな社会的責任を負っています。

同時に、社会の変革をリードするという大きな事業機会をいただいているわけですから、社員一同、強い誇りとやりがいを持って日々の業務に取り組んでいます。もちろん、自社における積極的なAI活用も「待ったなし」の課題です。これを機にさらなる事業拡大へとつなげ、グループの確かな成長ドライバーにしていきたいと考えています。

現場の暗黙知をAIに。「安全品質」を起点にした活用

──エクシオグループでは、生成AIが登場する以前からAI活用に取り組まれてきたそうですね。

私たちは以前から、画像認識や音声認識といったマシンラーニング(機械学習)技術を活用し、現場の安全や品質の向上に取り組んできました。いわば「現場の暗黙知をAIで価値に変える」ことを、愚直にやり続けてきたのです。

この成果は自社にとどまらず、現在は「安全品質AIソリューション」としてお客様へも提供しており、大変ご好評をいただいています。さらに、昨今の生成AIの技術進歩は、これまでの業務プロセスをゼロベースで見直す大きな契機となっています。

生成AIを活用した業務の自動化や効率化は、まさに“宝の山”。ここには今後もどんどん切り込んでいきたいですね。その際、私たちが重視しているポイントが「ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-Loop)」、つまり人とAIの協調です。AIにすべてを任せっきりにするのではなく、人間が主体となってAIを適切に使いこなすという姿勢を大切にしています。

──インフラ企業にとって、安全と品質は生命線です。AI活用において特にこだわっている点はありますか。

安全と品質は、私たちの事業における最優先事項です。意識改革、プロセスの刷新、ルールの徹底など、これまでも現場ではさまざまな施策を通じて、粘り強く事故を減らし、高品質を維持する取り組みを続けてきました。

それでも、人間が関わる以上、事故を完全にゼロにすることは容易ではありません。だからこそ、そこにAIの力を掛け合わせることで、限りなく事故ゼロに近づける施策を本格化させていきたいと考えています。

そのためには、私たちが長年現場で培ってきた安全に関するノウハウや経験を、AIに学習させなければなりません。先ほどお話しした「現場の暗黙知」をAIにしっかりとインプットし、それを活用して安全品質をさらに高度化させていく。私たちの生成AI活用は、この「安全品質」という原点としっかり地続きになっているのです。

約1万1000名が挑んだ「生成AIパスポート」。AIを組織の共通言語に

──今回、グループ会社136社を含む約1万1000名という規模で「生成AIパスポート」を受験されました。この決断の背景と狙いを教えてください。

生成AIは、全社員が身につけるべき「基盤スキル」だと考えています。

私たちが目指す「AIセントリック企業(AIを中核に据えた企業)」へと舵を切るために、まずは「生成AIを使うのが当たり前」という大きな流れをつくりたかった。今回の団体受験は、そのための第一歩であり、起爆剤と位置付けています。

全社員がAIを安全に、かつ効果的に活用するためには、単にツールとしての知識を得るだけでは不十分です。「リテラシーの向上」「AIを活用する発想力の醸成」、そして「DXを推進するための土壌づくり」。この3つを同時に実現してこそ意味があります。だからこそ、グループ136社を巻き込んだ壮大なチャレンジに踏み切りました。

──実際に受験を終えて、社内に変化はありましたか。

受験後の反響は想像以上でした。「自分の業務にどうAIを組み込もうか」「まずは試しに触ってみよう」といった前向きな声や、具体的な実践報告が驚くほど飛び交うようになりました。何より嬉しいのは、現場から自律的に「AIを使って業務をこう刷新しました」という具体的な提案や改善が、加速度的に増えていることです。

──トップダウンによる受験から、ボトムアップの動きが生まれているのですね。全社員にまでAIリテラシーを広げる意義を、組織づくりの観点からはどのように捉えていますか。

会社は複数の組織の集合体であり、それぞれの組織で働く「個人の力」が、そのまま組織の原動力になります。そのため、人を育てることが組織の成長に直結するという、強い連動性があります。

一方で、組織が肥大化すると、いわゆる「縦割り」の弊害が生まれます。私はこれをよく「タコツボ化」と表現するのですが、各組織が自らの利益を最優先してしまい、全体の最適化がなおざりになるケースが少なくありません。

ここで極めて有効に機能するのが生成AIです。AIは全社共通の基盤技術だからこそ、学ぶことで社内の「共通言語」や「共通の思考フレーム」になります。結果として、組織の壁を越えて物事を横断的に考えるための確固たる「軸」が生まれるのです。

さらに一歩進んだ未来のビジョンとして、私たちは社員がそれぞれの「AIエージェント(自分の分身)」を持つ取り組みも進めています。本人の思考や業務を理解したエージェント同士が、システム上で事前のディスカッションを行うような世界です。

人間同士のコミュニケーションにはどうしても感情や思い込みが混ざりがちですが、AIエージェント同士であれば極めてフラットで論理的な議論が行えます。そのフラットな議論を参考にしながら、人間がより確かな意思決定を下していく。そんな次世代の事業経営を目指しています。

しなやかさとたくましさ。AI時代に輝く「人ならではの価値」

──公式サイトの社長挨拶では「しなやかさ」と「たくましさ」という言葉を強調されています。AI時代における「人ならではの価値」についてどうお考えですか。

私は「しなやかさ」と「たくましさ」こそ、どんな時代でも揺るがない「人ならではの価値」だと信じています。「しなやかさ」とは、人と人とが共感してイノベーションを起こし、変化に柔軟に対応する力。「たくましさ」とは、一度挑んだことを途中で諦めずにやり抜く力です。

こうした創造力や完遂力は、AI時代にこそ人材経営の核になります。だからこそ、私たちは人材投資をコストではなく「未来への先行投資」と位置づけ、全社員が学び、挑戦できる環境づくりを経営の最重要課題に据えています。

──「技術力」を強みとする御社が、生成AIを「未来のあたりまえ」にするために何が大切だと考えますか。

最も大切なのは、技術そのものではありません。「誰もがいつでも安心して使える環境」と「人とAIの協調関係」、この2つに尽きます。AIがどれだけ進化しても、人にしかできない創造、共感、意思決定、そして信頼を築く力は代替できません。

たとえば、組織の壁を越えてゼロから変革を起こすようなシーンがまさにそうです。立場の違う人々が共通の高い目標に向かって進むためには、理屈を超えた「共感」や「腹落ち」が欠かせません。誰かの「これをやりたい!」という熱い衝動に周りが共鳴し、組織全体が巻き込まれていく。このイノベーションの巻き起こし方こそが、AIには真似できない、人間だからこそ生み出せる価値です。

こうした力を組織で常に育て、人とAIが役割を分担しながら、人間がより価値の高い仕事に挑戦できる社会を実現したい。それこそが、私たちの描く未来像です。

会社と会社がAIでつながる未来へ。生成AIは「第5の経営資源」

──生成AIの普及とともに、どんな社会や組織の姿を理想として描いていますか。

現在の生成AIは、まだ個々の「企業内」で活用されている段階ですが、今後は企業間をまたぐサプライチェーン全体、さらには業界の壁を越えて、AIエージェント同士がつながる世界へシフトしていくと考えています。今はセキュリティ等の課題から実現が難しい面もありますが、サプライチェーン全体がAIで密に連携されれば、とてつもない地殻変動が起きます。

たとえば、顧客一人ひとりの多様なこだわりや要望を瞬時に汲み取り、生産から物流までが自動で最適化されるような、真の「マスカスタマイズ(個別大量生産)」の世界がいよいよ現実味を帯びてきます。

これまでは難しかった「顧客ごとの最適化」と「圧倒的なスピード感」が両立するような、まさに産業革命レベルのパラダイムシフトが、あらゆる産業で巻き起こるはずです。「社内でAIを使うこと」はもはやスタートラインに過ぎません。私たちはその先にある「会社と会社がAIでつながる時代」をしっかりと見据え、次世代の組織づくりを進めていかなくてはならないと考えています。

──最後に、生成AI時代の経営に悩む方や、新たな挑戦に取り組む読者へメッセージをお願いします。

私は、生成AIを「ヒト・モノ・カネ・情報」に続く「第5の経営資源」だと捉えています。

これからの時代、AIに仕事を奪われることを恐れるのではなく、あらゆる領域でAIを活用し尽くし、新たな価値を創造し続ける企業でありたい。もちろん、トークンコストの増大やセキュリティ、情報漏えいへの懸念など、直面する課題は少なくありません。しかし、技術の進歩に合わせてそれらを克服する新しいソリューションも次々と生まれています。過度に失敗を恐れず、まずは正しく学び、現場でどんどん使ってみることが何より大切です。

泥臭い実践経験からしか、真のAIとの付き合い方は見えてきません。どれだけ技術が進化しようとも、未来を創るのはどこまでも「人」です。人を信じ、人に投資し、人とAIの力を社会の価値へと変えていく。共に未来を創る仲間として、この変革の時代に挑戦していきましょう。


PROFILE

KEIGO KAJIMURA

エクシオグループ株式会社 代表取締役社長
1989年に日本電信電話株式会社(現・NTT株式会社)入社。2022年にエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社代表取締役副社長、2024年6月にエクシオグループ株式会社代表取締役副社長を経て、2025年6月に同社代表取締役社長に就任。通信ネットワークの最前線で培った知見を生かして、「AIセントリック企業」への全社的な変革を牽引している。