AIとロボットが織りなす日本の未来:社会実装に挑む共創プラットフォーム・AIRoAの視点
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少子高齢化、労働力不足。日本が抱える社会課題の解決策として、AIとロボット技術の融合が今、大きな期待を集めています。その最前線で活動する、一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)で理事を務める牛久 祥孝氏に、AIロボットが切り拓く未来の可能性、そしてその実現に向けた課題と展望についてお話を伺いました。
AIRoAが目指すもの:個社の壁を越えた共創
ーAIロボット協会(AIRoA)が設立された背景を教えてください。
牛久:AIロボットの実装のためには、インターネット上のオープンデータだけでは足りません。個々の企業だけでは、AIロボットの開発に必要な人材、データ、そして資金を確保するのが非常に難しかったんです。AIRoAは、これらの課題を解決するために設立されました。協会として、経営資源であるヒト、モノ(データなど)、カネを結集することで、これまで個社では実現できなかった開発が可能になります。
国の予算も活用し、開発した成果物(AIモデルなど)を広く社会に公開することで、社会に貢献することを目指しています。
―AIRoAでは、どのような活動を行っているのでしょうか?
牛久:現在、主に3つの活動を同時並行で進めています。1つ目は「基盤モデル(さまざまな用途に応用できる土台となるAIモデル)開発」です。データ収集を含め、複数のチームが開発を進めています。国内の研究所や企業も参加を予定しています。
2つ目は「データ整備・公開」で、基盤モデル開発と連動して、ロボットの学習に必要なデータの整備と公開を既に始めています。最後に「社会実装の検討」です。社会実装委員会を設置し、具体的なユースケースやベストプラクティスについて、先行して議論を進めています。
生成AIが拓くロボットの新たな可能性
―生成AI技術は、ロボットにどのような影響をもたらすのでしょうか?
牛久:生成AIの根幹をなすトランスフォーマー技術は、もともとAIが言葉(言語)を理解したり、生み出したりする技術として発展しました。それが今では、画像、音、そして「力覚」(物に触れた時の力加減や感触)といった、さまざまな「モダリティ」(AIが認識する情報の種類)を理解できるようになりました。これにより、ロボットは目や耳だけでなく、まるで触覚があるかのように情報を感じ取り、それを言葉と結びつけて理解できるようになるんです。
これまでロボットへの指示は主にテキストでしたが、それが画像や動画、さらには物の重さや触感といった力学的な情報にまで広がったことで、ロボットの動きをコントロールする「制御信号」をより柔軟に生成できるようになります。これにより、ロボットの「汎用性」(さまざまな用途や状況に対応できる能力)が飛躍的に向上し、より多様な作業に対応できるようになることが最大のメリットです。
―AIロボットは、従来のロボットの導入・活用における課題をどのように解決しますか?
牛久:従来のロボットは、専門のロボットエンジニアがいないと導入も改変もできませんでした。工場でのライン作業のように、常に同じ動作を繰り返す用途には向いていましたが、例えば製品の仕様が変わるたびに専門家が必要になるため、ROI(投資収益率)が成り立ちにくいという課題がありました。AIロボットが言葉で指示を受け、賢く柔軟に動くことができるようになれば、導入のハードルはぐんと低くなります。
AIロボットの普及でさらに高まるAIリテラシーの重要性
―今年はAIエージェントが話題になっていますが、AIロボットはどのような場面で活躍するのでしょうか?
牛久:AIエージェント(自律的に目標を達成するAIプログラム)は、インターネット上の「サイバー空間」での活用が進んでいます。しかし、現実世界で何かを「動かしたい」とか「物に触れて何かをしたい」となると、AIロボットが必要とされるでしょう。
特に、いま私が注目しているのが「モバイルマニピュレーター(移動する台にロボットアームがついたもの)」というシステムです。モバイルマニピュレーターとは、自律移動が可能な基台(プラットフォーム)に、物体を掴んだり操作したりするためのロボットアームが搭載された複合システムです。この組み合わせにより、ロボットが広範囲を移動しながら、特定の場所で精密な作業を行うことが可能になります。例えば、工場や倉庫内で、在庫の棚から特定の部品や製品を取り出して別の場所に運搬・配置する作業や、原子力施設や災害現場のような危険な場所で、移動しながら点検、簡単な修理、あるいは資材の運搬やがれきの除去といった作業のような場面で活躍すると考えています。
―AIロボットが普及することによるリスクはないのでしょうか?
牛久:もちろんリスクはゼロとは言えません。生成AIは、主にインターネット上のサイバー空間での利用に限られているため、物理的な事故につながることはほとんどありません。しかし、AIロボットは現実世界で実際に動くため、誤解や予期せぬ動作が物理的な事故につながる可能性があります。
テクノロジーをうまく扱うためには利便性とリスクの両面を捉えることが重要です。これまでロボットと関わりのなかった人々を含め、AIロボットの特性やリスクを理解し、適切に活用するためのAIリテラシー教育が不可欠だと考えています。
AIロボット開発における日本の勝ち筋
―AIロボット開発において日本が持つアドバンテージは何ですか?
牛久:日本は、コンピュータが普及する以前から、職人の技術や長年の経験、そして言葉では伝えにくい「暗黙知」といった「勘と経験」の文化が強みでした。例えば、電車の遅延が少ないことなどに見られるように、現実世界での細かい作業やオペレーション能力が非常に高い国です。海外のAIロボットのアプローチが大量のデータと物量に頼る傾向があるのに対し、日本は人間の熟練された「勘と経験」をAIロボットに学習させることで、独自のアドバンテージ(優位性)を築ける可能性があります。
職人の技術や暗黙知が必要な複雑な作業が求められる、いわば「マニュアル化しきれない世界」で鍛えられた日本発のAIロボットが海外で活躍する可能性も十分にあると考えています。今後のAIRoAの活動と、AIロボットが織りなす日本の未来に、ぜひ注目いただきたいですね。
(取材・執筆:おざけん)
PROFILE
株式会社NexaScience 代表取締役およびオムロンサイニックエックス株式会社 リサーチバイスプレジデント。コンピュータビジョンや自然言語処理を対象として、機械学習によるクロスメディア理解やAIロボット駆動科学の研究に従事。
2014年に博士(情報理工学)を東京大学で取得後、NTTコミュニケーション科学基礎研究所入所。2016年東京大学情報理工学系研究科講師、2018年よりオムロンサイニックエックス株式会社 Principal Investigator。
2017年ACM Multimedia Open Source Software Competition Honorable Mention選出、2017年および2018年NVIDIA Pioneering Research Awards受賞、2021年ヤマト科学賞受賞、2023年NISTEPナイスステップな研究者選出。