キャリアコンサルタントならではの気づき。世代ごとに適した生成AIとの付き合い方【Story #2】
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企業が生成AIの導入・活用を推進するなか、全てのビジネスパーソンに求められる生成AIリスキリング。実際に生成AIを安全に活用するためのリテラシーやスキルの習得に取り組み、新たなキャリアの形成や市場価値の向上につなげたビジネスパーソンの「ストーリー」に焦点をあてたインタビュー企画をお届けします。
今回は、大手小売チェーンに長年勤務しマネージャーを務めるかたわら、現在、ボランティアでキャリアコンサルタントとしても活動されている峯近 克年氏にお話を伺いました。二足の草鞋のキャリアを歩まれる峯近氏だからこそ気づいた、世代ごとに異なる生成AIに対する姿勢とは?若い世代と中高年のそれぞれに適した、生成AIとの付き合い方を探ります。
市場分析や画像加工の業務で、AIによる代替可能性を実感
ー峯近さんの経歴と、現在の職務について教えてください。
峯近:私はいわゆる就職氷河期の第一世代にあたるのですが、1993年に大手小売チェーンに就職しました。この業界を目指したのは、世の中のトレンドにもとづいて商品を色々な世代に提供することをやりたいと思ったからですが、気づけば就職した大手小売チェーンで32年働いて現在にいたっています。
就職後は店舗で食品担当を4年半ほど務めてから、本社へ異動しお酒のバイヤーを経験した後、エリア本部にて店舗経営スタッフも経験。その後再び本社へ戻って12年間マーケティング部門にいました。その後リアル店舗でのチルド食品バイヤー、ネット販売部門でバイヤー・ネット運営スタッフを務め、2025年2月からは惣菜部門の自社製造ラインでマネージャーをしています。
ー生成AIが登場した当時、どんな印象を持ちましたか?
峯近:2年前はネット販売部門でバイヤーをしていましたが、商品の仕入れに関する分析とかでChatGPTは使えそうだな、という印象はありました。しかし、まだ当時の企業内では新しい生成AI技術に対するセキュリティや情報漏洩リスク回避を優先する傾向が今よりもより強かったので、ChatGPTなどの生成AIを使いたいとはすぐに言えない雰囲気がありました。
ただ、企業内でのセキュリティルールに基づく範囲で生成AIを実際に使ってみると、例えば市場分析をする場合、当時は自分で競合他社の商品をネット検索して、その結果から全体像を組み立てていましたが、生成AIを使うとプロンプト一発である程度の分析ができました。それこそ1/10くらいの時間で、分析の見立てが得られたのです。
1年前にいたネット販売部門では、商品画像の編集作業をする専任の担当者が他の業務を担当することとなり、急遽その仕事をわたしがチームメンバーとしてサポートしなければならなくなりました。私はPhotoshop初心者だったのですが、調べるとPhotoshopに画像を加工するAI機能や自動化機能があるのがわかりまして、規定サイズにしたり明るさを調整したりする処理を自力で自動化しました。この経験から、AIによって仕事が置き換わることをリアルに感じました。

キャリアコンサルティングにおいても重要な生成AIの知識
ー峯近さんは生成AIパスポートを取得されています。どのような理由で取得を目指しましたか?
峯近:長年勤めている大手小売チェーンのほかに、今後のキャリア展開を見据えてキャリアコンサルタントの資格を去年の11月に取得していました。それで年明けからNPO法人でのボランティア活動としてキャリアコンサルティングを行っていました。
キャリア相談に来られる方は自分と同じ世代もいましたが、若い方や大学生が来る可能性もありました。若い人たちとの相談で生成AIの話が出たときに、全く知らないとキャリアコンサルタントとして弱いのではないか、と思っていました。そんな時にキャリアコンサルタントの勉強でお世話になった資格学校で生成AIパスポートを取得できるプログラムを知ったことがきっかけでした。
ー生成AIパスポート取得に向けた学習のなかで、どんなことが印象に残っていますか?
峯近:プロンプトのようなテクニック的なことも大事ですが、法律や権利のようないわゆる生成AIのリスクやデメリットに関することが印象に残っていて、今でも復習しています。
私の勤め先ではMicrosoft Copilotのセキュリティトレーニングプログラムがありまして、こうしたプログラムと自分の知識を生かせば、2年前よりずっと社内での生成AI活用の見通しが立つと思っています。
ー実際に、キャリアコンサルタントとして相談を受ける時に活きている知識はありますか?
峯近:若い方の話を聞く時に感じるのは、小さい頃からスマホを使いこなしていて、最新テクノロジーを当たり前のものとして受け入れる感覚があるんですよね。そんな方々は、生成AIの歴史やリスクなんかを深く考えずに便利だから使っちゃうわけです。
そんな若い方に、例えば自分のキャリアを洗い出した文章を作ってもらうと、当たり前のようにChatGPTが出力した文章を使います。そうした文章は、一見するとよくできたものに見えます。しかし、生成AIの知識があると何となく生成AIが出力した文章はわかるようになるので、この文章はどんなプロンプトを使って作ったの、というように突っ込みができるようになります。
生成AIが出力した文章を不用意に履歴書などに使ってしまうと、誰かと似たような文章を提出することになるので、そうした行いを見逃すとキャリアコンサルティングとして失敗です。そんなわけで、これからのキャリアコンサルタントには生成AIの知識が重要になると思います。

生成AIの「トリセツ」を理解すれば、素敵なスキマ時間が生まれる
ー峯近さん流の生成AI活用例があれば教えてください。
峯近:本業の日常的な使い方としては2通りありまして、ひとつめは定型業務での活用です。例えば返信メールや定例報告の作成では、ほぼMicrosoft Copilot(自宅プライベートではChatGPT)で出力できるようにしています。もちろん、企業内での使用においてはセキュリティや社内ルールに十分配慮した範囲で行っています。
もうひとつは、企画を考える時のサポートに使っています。例えばコンビニエンスストアにおけるおにぎりの具材のトレンドについて、Microsoft Copilot(自宅での検索時はChatGPT)に尋ねたりしています。質問をいくつか重ねると、トレンドの全体像がある程度わかってきます。また、パワポ資料を作る時も「このテーマで15分で提案できる程度の目次を作って」みたいなプロンプトを入力しています。
また、キャリアコンサルタントの関係では、2時間半の講演を頼まれたことがあり、その時に話すネタについてChatGPTに相談しました。例えば「キャリアコンサルタントが思わず聞きたくなる、 マーケティングの話って何」みたいに質問したんです。生成AIは、世の中の平均的なキャリアコンサルタントの思考みたいなものを学習しているはずなので、キャリアコンサルタントが好みそうなことについて質問しても、ある程度の精度で答えてくれました。
長時間の講演という機会は、私にとっては初めての挑戦でしたが、生成AIがアシスタントとして機能してくれたことで、より自信をもって挑戦できた感覚があります。もちろん、生成AIに任せたことも、最終的には自分の知識や経験に基づいて判断し、責任を取るスタンスも大切です。
ーキャリアコンサルタントとして、生成AI活用をすすめるとしたら、どのように伝えますか?
峯近:学生や若い方に対しては、生成AIリスクをふまえたうえで、定型業務を効率化するために生成AIを使ってみて、とアドバイスしています。前任者が当たり前に行っていた業務手順も、生成AIで簡単にできるはずです。
定型業務を効率化できたら、効率化で浮いた時間を生成AIを活用して、自分の業務に関して情報収集するようにすすめています。業務についてじっくり考え、専門性を磨いた時間は、3、4年後に活きてくるよ、とも伝えています。
一方で中高年の方に対しては、転職活動でも趣味でもいいので、とにかく一度生成AIを使ってみて、と話しています。この年代の方々は、PCの登場やインターネットの普及なんかを経験し、すでにITリテラシーを身につけている方が多いです。細かいテクニックやリスクを説明するのではなく、最初の一歩を後押しさえすれば、自然とうまく生成AIを使いこなせるんじゃないかと思います。
ー最後に生成AIパスポートの取得を考えている方に対して、応援メッセージをお願いします。
峯近:生成AIパスポートは、そのネーミングから難しそうで丸暗記することが多くて大変そう、と思う方もいるかと思います。しかし実際には、生成AIの歴史と体系的な知識がうまくパッケージされた資格試験なので、言わば生成AIのわかりやすい「トリセツ」みたいなものだと思っています。トリセツを理解すれば、きっとあなたの生活に素敵なスキマ時間がどんどん増えると思いますよ。
PROFILE
国家資格キャリアコンサルタント。リスキングキャリアコンサルタント。
「人」と関わることが好きで、大手小売チェーンに新卒入社。店舗運営を経て、バイヤーとして約10年、マーケターとして約12年にわたり、生活者視点に立った商品・サービスの企画・開発に従事。現在はSPA(製造小売)部門の現場マネジャーとして、生産管理および現場とのコミュニケーションを重視した運営に取り組んでいる。一貫して「人の役に立つこと」を自身の仕事の軸とし、国家資格キャリアコンサルタントの資格を活かして、地元NPO法人にてキャリア支援及び県立高等学校での就職支援アドバイザーとしてボランティア活動も継続中。プライベートでは、noteにてエッセイスト兼イラストレーターとして、日常の気づきや心の機微を言葉と絵で表現している。剣道五段。長年続ける中で得た「継続の力」を大切にしつつ、座右の銘「日々之新(ひびこれあらた)」のもと、日々自己を更新し、仕事・地域・創作の各領域において、人と真摯に向き合う姿勢を貫いている。
<主な資格>
生成AIパスポート(GUGA認定資格)、国家資格キャリアコンサルタント、リスキングキャリアコンサルタント(JRCA認定資格)、メンタル心理カウンセラー(JADP認定資格)、両立支援コーディネーター(JOHAS認定)、訓練対応キャリアコンサルタント、国家資格 司書、食品衛生責任者 等