10回目の定点調査で初の傾向。“リスキリング”でも生成AIが主役に
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かつて「AIに仕事を奪われる」と恐れていた私たちは、いまやAIと共にはたらくスキルを学ぼうとしている。
パーソルイノベーションが展開する『Reskilling Camp(リスキリング キャンプ)』が実施した最新の企業向け調査(2025年6月)では、リスキリング施策において初めて「AI活用(ChatGPT等)」が“重視されるスキル”の第1位に選ばれた。
「リスキリング=技術的な再教育」という枠組みを超え、「生成AIをどう使いこなすか」「AIと人の役割分担をどう設計するか」といった問いが、企業の中で現実味を帯びてきている。
はたらき方の中心に生成AIが入り込んだ今、企業は何を学び、何を変えようとしているのか──。10回目の定点調査から、その変化の輪郭を読み解いていく。
※本記事は、パーソルイノベーション株式会社からの寄稿記事です。
生成AIがなぜ、リスキリングでも重視されるのか
「リスキリング」という言葉はここ数年で定着したが、その実態はまだ揺れている。
今回の調査で明らかになったのは、“リスキリングで身につけるべきスキル”として、初めて「AI活用(ChatGPT等)」が1位に選ばれたという事実だ。
かつて、AIは一部の専門職に限定されたツールという認識が強かったが、現在では、非エンジニア職であっても「生成AIを業務に活かすスキル」が、あらゆる部門で求められている。
実際、今回の調査では「情報システム部門」が最も多く、次いで「経営企画」「人事」が対象部門として挙げられている。つまり、企業の“頭脳”にあたる部門こそが、AIを前提とした変革に迫られているといえるだろう。
リスキリングの主役がAIへと移行する、その大きな転換点が訪れている。
AIが変えたのは“何を学ぶか”だけでなく、“どう学ぶか”
興味深いのは、リスキリングの失敗要因として「研修内容と実務のミスマッチ」が最も多く挙がった点だ。
これは裏を返せば、「現場で即戦力となるAI活用スキル」が強く求められているということである。
実際、生成AIの活用には、操作方法の習得だけでなく「問いを立てる力」や「情報を評価・選別する力」も必要だ。つまり、AIの力を引き出すには、人間側にも相応の情報リテラシーや思考力が求められる。言い換えれば、AI活用スキルとは「AIに使われる」のではなく、「AIと共に思考し、成果を出す力」のことである。
DXは“AIでできること”を見極める力から始まる
今回の調査では、DX人材の確保が「まだできていない」と答えた企業が全体の46.6%にのぼった。
一方で、DX人材の獲得手段として最も多かったのは「社内育成・研修」(62.8%)であり、中途採用や出向といった手段を上回っている。
これは、DX人材の採用が難しい状況下において、現在の人材に“AI時代の思考法”を習得させるほうが、時間やコストの観点から現実的であると判断している企業が多いことを示している。
その意味で、AI活用スキルをリスキリングの中心に据える流れは、ごく自然なものである。
AIによる自動化・効率化が進む中で、「どこをAIに任せ、どこに人が介在すべきか」という判断力こそが、今後のDXの鍵となる。
“AI前提社会”における人の役割とは
リスキリングとは、単なるスキル教育ではなく、「社会における人の役割の再定義」でもある。
かつてのリスキリングは、明確な職種転換や技術習得が目的だったが、現在、企業が求めているのは、AIを業務の“共働者”として活用し、成果につなげる人材である。
そのためには、「AIの使い方」だけでなく、「業務設計」「データ活用」「判断力」など、より高度で統合的な思考が求められる。
これはもはやIT部門に限定されたテーマではなく、経営層・人事・現場のプレイヤーすべてに関わる“全社的な能力開発”の課題となってきている。
今後のカギは「カルチャーとの接続」
生成AIは、特定の職種や業務に限定される技術ではない。誰でも使えるが、誰もが使いこなせるわけではない。
だからこそ、すべての職種・レイヤーに「AIと向き合う入り口」を用意する必要がある。
特に重要なのが「企業カルチャーとの接続」である。
調査では「社内異動型リスキリング」が最も認知されていたが、これは「既存人材が“場を変えることで学び直す”」手段に注目が集まっていることを示している。
制度だけではなく、挑戦や学び直しをポジティブに受け止めるカルチャーこそが、リスキリングを成功に導く鍵となる。
ベテラン層やプロフェッショナルな層が「AIに仕事を奪われる」のではなく、「AIを掛け合わせることで最強の人材」へ
AIを脅威として語る時代は、すでに終わりを迎えた。
企業が今必要としているのは、「AIを恐れず、使いこなすための武装」を従業員に与えることだ。
Reskilling Camp Company 代表の柿内秀賢も、今回の結果を受けて次のようにコメントしている。
「AIは人の思考を補完するツールであり、学び直しの対象でもあります。今回の調査で明らかになったのは、企業がついにそのステージに本格的に踏み込んだという事実です。 AIを使いこなすことで、自分の仕事の意味を問い直すことができます。そして、組織においても、構造や評価基準を柔軟に更新していく覚悟が求められます。だからこそ、努力している人が報われる社会であってほしい長年経験を積んできたプロフェッショナルが、AI時代に排除されるのではなく、これまでの知識と経験にAIスキルを掛け合わせて“最強の人材”となれる、そんな未来を実現したいのです。」
Reference:リスキリング支援サービス『Reskilling Camp』 企業におけるリスキリング施策の実態調査(2025年6月版)https://www.persol-innovation.co.jp/news/2025-0702-1
PROFILE
上場企業の営業管理職を経て、複数社で広報管理職を歴任。多岐にわたる新規サービスに関するプロジェクトをPR領域で推進。パーソルグループで新規事業を創出しているパーソルイノベーションの広報責任者として、情報開発および広報組織の立ち上げに従事。ライターとして複数の媒体でコラムも執筆。2025年6月、早稲田大学招聘研究員に就任。