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生成AI導入の3ステップ。重要なのは「コンセプト」を定義すること

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まだまだ前例の少ないなかで、企業に求められている生成AIの導入。推進を担うリーダーは、試行錯誤しながら次の一歩の踏み出し方を模索している様子がうかがえます。そこで今回は、インサイドセールスとコンタクトセンターを中心に営業支援事業を展開するSALES ROBOTICS株式会社の事例を紹介。同社のAI Innovation室 室長を務める高木 康介氏に、生成AIを導入するプロセスや具体的な施策、乗り越えてきた障壁についてお話を伺いました。

※本記事は、2024年5月22日に開催されたNexTech Week 2024【春展】内「AI Table」でのトークセッションの内容を抜粋・編集したものです。

生成AIの導入によって組織を成長させる3つのステップ

――生成AIの台頭を受けて、どのような印象を感じましたか?

正直なところ、ものすごいインパクトを感じましたね。営業支援の領域はこれまで人が主導してきた部分が多かったですが、生成AIによってそれがどんどん置き換えられていく危機感を強く感じました。経営陣とも「僕らのような営業支援事業をしている業界はなくなるんじゃないか」と話していました。

そんななか、2023年9月から本格的に生成 AIの推進を始めましたが、 正直、最初は何から手を付ければよいのか全くわかりませんでした。手探りで進めていくなかで、まず最初に行ったことは、経営のトップから全社員に向けて「生成AI導入の第一歩を踏み出す」というメッセージを発信することでした。会社のなかで宣言したというのは、すごく大きな出来事だったと思いますし、定期的に発信を続け、社内に浸透させていくことから始めましたね。

――生成AIの導入と活用について、どのようなステップを描かれていますか?

弊社では3つのステップに分けてプロセスを描いています。最初のステップは「意識化」です。まずは社員全員が生成AIによる影響を理解し、共通の危機感を持つことから始めました。私たちの業務やビジネスへの影響を把握することで、次のステップへ進む基盤ができました。

2つ目のステップは「導入・拡張」です。この段階では、どの業務に生成AIを適用するかを慎重に検討し、導入を進めました。業務フローを見直し、生成AIが最も効果的に機能する部分を特定し、ようやく開発にも着手し始めている段階です。その先に描いている3つ目のステップが「価値改革」で、自社内の変革だけではなく、お客さまにどのような価値を提供できるのか、ということを再定義するフェーズだと考えています。

――かなり綺麗に3ステップが描かれているなという印象ですが、最初からこのプロセスを描いて進めてきたのでしょうか?

取り組みを進めていくなかで整理をしたというのが実態ですね。最初は導入に向けての焦りから、「全社にGPTを入れたらいいんじゃないか、特定の部署で使わせてみればなんとかなるんじゃないか」と思いましたが、やはりうまくいきませんでした。なので、そこから一歩立ち戻り、どのように伝えれば社員に興味を持ってもらえるのか、使ってもらえるのかを考え直しました。世の中的にも正解がある取り組みではないからこそ、進んでみて違うと思ったら戻る、ということを繰り返しながら進めていますね。

まずは「コンセプト」の定義から。会社全体で共通認識を持つことが重要

――実際に取り組まれている施策について、教えていただけますか?

まず、最初の施策は 「コンセプトの定義」です。私たちは、生成AIを何のために活用するのか、その目的を社内で話し合いながら決めていきました。最終的なコンセプトとして、「目の前の顧客に向き合う時間を増やす」ということを掲げ、会社全体の共通認識となっています。何をやるにしてもこのコンセプトに立ち戻って、「それは何のためにやっているの? 顧客に向き合う時間を増やすためだよね」ということを社内で会話しています。

次に行った施策が「業務の再定義」です。生成AIを導入するためには、しっかりとした要件定義が不可欠です。私たちは、社内の全業務を細かく洗い出し、どの業務にどれだけの時間が費やされているのかを詳細に分析しました。これにより、生成AIが最も効果的に活用できる部分を特定し、効率化できる領域を明確にしました。

最後の施策は 「現場推進メンバーの選定」です。実務を行いながら生成AIの推進を担当するメンバーを選定し、彼らが現場で実際に生成AIを活用しながらプロジェクトを進めていく体制を整えました。このメンバーは、特別なAIの知識があるかどうかよりも、やる気と情熱があるかどうかを重視して選びました。

――現場で実務を行うメンバーが推進役になることで、生成AIの活用がより現実的なものとなるわけですね。

その通りです。推進メンバーは若く、3年目から7年目ぐらいの社員が中心になって動いています。サービスに対する理解が深いからこそ、どの業務に課題があるのかを把握できています。コンセプトに通じる「顧客との向き合い方」をどれだけ改善できるのかを最も重視しています。

生成AI活用の活性化へ。環境整備と人材育成によって生まれた変化とは

――社員の生成AI活用を活性化するために、どのようなことを工夫していますか?

生成AIを使いやすい環境を整備するために、社内で使われるAIツールのユーザーエクスペリエンス(UX)を継続的に改善し、社員がより簡単に利用できるように検証しています。例えば、プロンプトのテンプレートを用意し、社員が複雑な操作をせずにAIを活用できるようにするなどの取り組みを進めています。

――環境整備の一方で、人材育成についても何か取り組まれているのでしょうか?

会社として、生成AIを活用することにつながる学びの機会を提供していくことが重要であると考えています。例えば、「生成AIパスポート」の資格取得を支援するプログラムを設け、社員が自発的に資格を取得できるようにしました。一部の社員にはこの資格の取得を必須化し、成長を促進しています。そのほかにも若手社員向けに研修を展開したり、採用の側面では生成AIを活用できる人材を積極的に採用したり、といった計画を考えています。

――そういった人材育成に取り組まれているなかで、社員からはどのような反応がありましたか?

生成AIの導入推進を始めたころと比べると、会話の内容に変化を感じていますね。当初は自分の仕事がなくなるのではないかといった危機感の話が多かったのですが、いまでは生成AI活用に対する期待感や自分の成長につながっている実感などのすごく前向きなコメントが出てきています。推進者としては、とても嬉しい変化ですね。

生成AIは自分より優秀にならない。これから求められる自身の成長戦略とリスキリング

――貴社の今後の展望について教えてください。

現在、コンセプトをもとに開発を進めているところですが、1年後には私たちがいま行っている業務や、お客さまに対する価値提供の形が確実に変わっていると考えています。そうなったときに、社員がどのようなスキルを身につけるべきか、そしてどう成長していくべきかを考えていく必要があります。特にこの1年は、サービスモデルの変化に伴うリスキリングが重要な課題になると感じています。

――最後に、生成AIの導入を推進するリーダーに向けてメッセージをお願いします。

私たちが最も大事にしているのは、生成AIを活用すること自体ではなく、それを通じてお客さまにどのような価値を提供するのか、という点です。生成AIを活用した結果として、どのように新たな価値が生まれるのかを常に考え続けることが最も重要です。

その上で、「生成AIは自分より優秀にならない」という考え方を大切にしています。生成AIによるアウトプットを最終的に判断するのは自分だとすると、自分の器以上のものにはならないわけです。生成AIを活用していくなかで、これから自分自身がどう成長していくのかを考えることも大事だと思います。

PROFILE

KOSUKE TAKAKI

SALES ROBOTICS株式会社 AI Innovation室 室長
WEBプロデューサーを経て、一部上場企業にてWEB事業のマネジメントを経験後、株式会社リクルートマーケティングパートナーズにて、スタディサプリ ENGLISH等の事業開発、事業推進に従事。現職ではインサイドセールス領域の新規事業の開発を行いながら、生成AIに関しての活用、業務改善の企画立案、パートナーアライアンスを推進。