2024年のノーベル賞に学ぶAIの学術的意義
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2024年のノーベル賞では物理・化学の両部門でAI関連の研究が受賞して注目を浴び、AI(人工知能)技術の進化とその学術的価値が高く評価された年となりました。物理学賞では「ニューラルネットワークの基礎理論」が、化学賞ではAIを活用したタンパク質構造予測技術「AlphaFold(アルファフォールド)」が受賞の対象となり、科学の多様な分野でAIが革新の原動力になっていることが示されました。
この記事では、ノーベル賞を獲得した2つの研究を紐解きながら、これからの研究のあり方がAIによってどのように変わっていくのか、考察していきます。
AIの誕生を評価した物理学賞
ノーベル財団公式Xより
現代AIの基礎である「ニューラルネットワーク」の理論は、実は物理学の研究から生まれています。ニューラルネットワークとは、簡単にいえば、人間の脳の仕組みを模倣したネットワーク構造をつくることによって、情報を処理し、学習し、パターンを認識する技術です。これは、多層の「ニューロン」から成るネットワークで、入力から出力までの情報を順次処理し、経験を通じてデータの特徴を学び取ることができます。そのため、画像認識や音声認識、自然言語処理など、さまざまな分野で高精度な予測や分類を実現することが可能です。今話題の生成AIが生まれたのも「ニューラルネットワーク」の仕組みが生まれたからです。
1980年代、物理学者ジョン・ホップフィールド氏の研究によって、AIがデータを「記憶」し、必要に応じてその情報を再構築する「ホップフィールドネットワーク」が提案されました。このモデルが後にニューラルネットワークに進化していく原石となります。このネットワークは、物理学の「イジングモデル」という磁気のスピン(原子の微小な磁石が持つ特性)の理論をもとに構築されています。イジングモデルでは、磁石が互いに影響し合い、特定の方向にそろうことでエネルギーが安定する状態を作り出します。ホップフィールド氏は、このスピンがそろう様子をAIの記憶に応用し、AIが一度覚えたデータ(たとえば画像やパターン)を再現できる仕組みを考案しました。
このホップフィールドネットワークでは、AIの「ノード」(仮想的なニューロン)が互いに影響を及ぼし合い、まるで磁気スピンがそろうように、連鎖的に情報を「記憶」します。つまり、ホップフィールドネットワークは、物理的なエネルギーが安定するように情報を保存する「連鎖記憶モデル」として機能します。たとえば、欠けていたりノイズが入ったりした画像データでも、AIはスピンが影響し合うようにノードの値を更新し、元画像に近い状態を復元できるようになっています。
さらに、ジェフリー・ヒントン氏の研究は、初めてAIに「学習」できる能力をもたらしました。彼が開発した「ボルツマンマシン」は、物理学の統計理論を応用してAIがデータ中の特徴を自律的に見つけ出し、それを識別・分類する能力を持たせました。
AIが自らデータから学ぶことで、現代の深層学習(ディープラーニング)技術が発展する礎が築かれました。このように、AIの歴史は物理学から始まり、特にホップフィールド氏とヒントン氏の研究によって、データを「記憶」し「学習する」というAIの基本的な機能が形作られました。
AIの応用の新たな可能性を評価した化学賞
ノーベル財団公式Xより
一方で、2024年のノーベル化学賞は、AIが科学の進展を加速する重要なツールとして活躍する可能性を示しました。
デビッド・ベイカー氏らによる研究は、AIを活用してまったく新しいタンパク質を設計する技術です。タンパク質は、私たちの体を作る細胞や、体内で起こるさまざまな化学反応の主役です。このAI技術により、病気の治療薬や環境に優しい新しい素材などを短期間で設計できるようになりました。たとえば、何年もかかっていた新薬の開発も、AIを使うことで設計にかかる時間を大幅に短縮できるようになったのです。医療や製薬分野にとっては、AIが新しい時代の研究ツールとして大きな期待を寄せられています。
さらに、AlphaFold(アルファフォールド)は、科学界で特に話題を呼んでいます。AlphaFoldは、タンパク質がどのように折りたたまれて三次元の形を作るかを高い精度で予測できる技術です。タンパク質の形状は、その働きに直結しており、形がわかることで、病気の原因解明や治療法の開発が飛躍的に進むのです。しかし、これまではタンパク質の構造を調べるには膨大な時間と労力がかかり、予測も難しいという課題がありました。AlphaFoldはこの課題を克服し、わずか数日で複雑なタンパク質の形を予測することができるため、科学者たちはこれを使って多くの発見を加速させています。
このように、AIが学術研究に与えるインパクトは非常に大きく、研究のスピードを格段に上げることで、新しい発見や成果が続々と生まれています。AIは、もはや単なる「便利なツール」ではなく、科学研究の進展を支える重要なパートナーとなりつつあります。今回の化学賞は、AIが科学の現場でどれほど強力な助けになるかを証明したものといえるでしょう。
AIの進化を支える基礎知識を学ぶ意義
今年のノーベル賞は、AIの誕生とその学術研究への幅広い応用が、改めて人類社会にとって大きな貢献であることを示す結果となりました。AIは新たな発見をもたらす強力なツールとなりつつあります。生成AIに興味を持つ人々にとって、AIの仕組みや活用方法を理解することは非常に重要です。この知識は、今後の科学技術の発展を支える基盤となるでしょう。
また、AIがどうして人間のように学習できるのか、どのようにして科学の課題解決に応用されるのかを学ぶためには、物理学や化学、生物学といった基礎知識が欠かせません。これらの学問を学ぶことで、AIの仕組みやその応用の幅広さを深く理解し、未来の科学を支える次世代の担い手として社会に貢献できる可能性が広がります。
AI技術は、単に機械を動かすためのものではなく、誤解を恐れずにいうと、研究者たちの功績によって、あたかも人のように「思考」することができるようになりました。これにより今後も生活や仕事の中のさまざまなプロセスが自動化される未来はすぐ近くに迫っています。AIが今後の未来において我々に対してどのような影響を及ぼすのか、正しく理解し キャッチアップし続けるためにも、科学的思考を磨き、興味を持って学び続けていくことが大切です。
Reference
・ノーベル財団公式HP(https://www.nobelprize.org/)
PROFILE
一般社団法人生成AI活用普及協会 協議員/株式会社スニフアウト 代表取締役 CEO
2021年 東京大学大学院 複雑理工学専攻を卒業。理論物理学やヒューマンインターフェースを専門とし、在学時から大手化粧品メーカーや大手ゲーム会社で様々なAIや機械学習の開発に従事。チャットボットを提供するベンチャー企業にて新規事業の立ち上げ及びグロースを事業責任者として主導したのち、2022年11月に株式会社スニフアウトを創業。定着化を実現するヒューマンセントリックな生成AIアプリケーション開発や、上流の意思決定にまで入り込む コンサルティングを得意としており、これまで40以上の企業の生成AI導入を成功に導く。