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生成AIを使わない理由はなんだ? トップダウンで推進する生成AI導入と人材育成

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企業の生成AI導入において重要だと言われる「トップダウン」での推進。しかし、実際にどのようなメッセージを伝えることが効果的なのか、どういったプロセスを描くとよいのかといった悩みを抱える企業は少なくありません。そこで今回は、アプリ開発やITアウトソーシング事業を軸に、DXやAIのプロジェクトを推進するCLINKS株式会社の生成AI導入事例を紹介。同社で取締役を務める木村 俊之氏に、トップダウンによる生成AI導入の裏側や、全社員のAIリテラシー向上に向けた人材育成、その先に描く展望についてお話を伺いました。

※本記事は、2024年5月22日に開催されたNexTech Week 2024【春展】内「AI Table」でのトークセッションの内容を抜粋・編集したものです。

積極的に外部のチカラを取り入れる。生成AI導入を自社内で完結させないワケ

――生成AI導入の現状について教えていただけますか?

GPT3が登場したときから、この技術は絶対に流行るなと思っていました。これをなんとか会社の武器にしたいなと思い、社長を巻き込んで、全社的な取り組みにつなげていきました。しかし、生成AI活用の従業員への定着は、言葉で言うほど簡単ではありません。

そこで、弊社では生成AI活用普及協会(GUGA)協力のもと、外部講師を招き、毎週勉強会を開催しています。例えば、プロンプトの基本的な考え方や営業、エンジニアリングなど各分野での具体的な活用方法を学んでいます。さらに、社長から「生成AIパスポートを全従業員が取得しよう」というメッセージがあり、全社的なAIリテラシーの底上げに取り組むことで、少しずつ定着しているような状況です。

――自社内で完結せず、積極的に外部のチカラを取り入れているんですね。

自社内だけで推進できる取り組みには限界があります。第三者の視点やプロの意見を取り入れることで、よい点もわるい点も客観的に評価できます。また、幹部社員が勉強会に参加することが非常に重要だと考えていたので、外部の方を招くことが参加の後押しになるだろうという意図もありました。現在、勉強会には約60人の幹部社員のほぼ全員が参加し、社長や役員も参加しています。

生成AIを使わない理由はなんだ? 全社普及に向けた社長からのメッセージ

――貴社ではどの部門・職種から生成AIの導入を進められたのでしょうか?

弊社のようなIT企業の場合、エンジニアから最初に生成AIの導入をスタートする企業が多いと思います。しかし、その進め方だと、生成AIが一部の職種で活用されるものだと捉えられてしまう懸念がありました。職種を問わず全社的に普及させるという視点で考えた際、営業や人事、総務など、会社を下支えしている人材が生成AIをどう使うかが重要なポイントだと考え、バックオフィス部門も巻き込んで導入を推進しました。

――全社的な普及を目指すにあたり、ほかにも工夫されたことはありますか?

やはり、社長からトップダウンで全従業員向けにメッセージを伝えてもらったことが大きいと思います。ある幹部会議では、社長が「生成AIを使わない理由はなんだ?」と問いかけたんです。その瞬間、2分ぐらい固まって誰も言葉を発しなかったことを覚えています。そこから一気にスイッチが入り、自分自身だけでなく自分の部下も含めて、生成AIを使うことはもちろん、「生成AIパスポート」の取得を促す動きが全社的に活発になりました。

企業価値の向上を見据えた人材育成。AIリテラシーの重要性とは

――GUGAが提供する資格試験「生成AIパスポート」について、全従業員の取得に向けてどのように推進しているのでしょうか?

生成AIパスポートを取得する目的としては、従業員がAIリテラシーを高めることであり、それが企業全体の価値向上につながると考えています。6月の生成AIパスポート試験では、現時点で約1,300名の従業員のうち約600名(※)がエントリーしています。前回は約110名が受験したので、全従業員の半数以上に到達しました。
※2024年5月22日時点の情報であり、最終の申込者数は700名超。2024年8月1日時点 で、CLINKS社では654名が生成AIパスポートに合格。

受験費用は会社負担で、学習するための公式テキストも会社負担で購入しています。試験の合格者には5,000円のお祝い手当てを支給し、現金換金が可能な社内独自の通貨も5,000円相当分を付与します。合計すると、合格者1名あたりに対する投資額は2万円以上となり、600名分だと総額1,000万円を超えます。将来的な価値創出につながると考えれば、会社としては1,000万円や2,000万円の投資をしても回収できると考えています。今後、新卒社員や中途採用者にもこの取り組みを継続し、投資をしていく価値があると考えています。

――AIリテラシーを重視されている理由を教えてください。

生成AIの活用にあたって、ガバナンスやセキュリティに関する観点や、利用可否を判断するための観点は、まだ法的に明確に定められていないため曖昧な部分が多い印象です。しかし、そういった観点を全く知らない人材を教育し、AIリテラシーを身につけることは、彼らが自分でAIを使い始めるきっかけになると考えています。そして、文章生成だけではなく開発、テスト、採用、営業など、ありとあらゆる場面で用途を広げていくことで、企業価値が高まるという考えです。AIリテラシーの底上げを通じて、生成AIの活用に対する社内の雰囲気がだいぶ整ってきているように感じます。

目指すのは「AIドリブンカンパニー」。AIを活用できない企業が淘汰されていく時代へ

――生成AI導入の先に描く、貴社の展望をお聞かせいただけますか?

まずは、全従業員約1,300人に「生成AIパスポート」を取得させ、AIリテラシーの向上を目指します。従業員がガバナンスやセキュリティのルールを知らないままAIを活用することは、企業にとってリスクにつながるため、安全に生成AIを活用できる人材の育成が一番だと思っています。さらに、生成AIをうまく活用できる従業員に対しては、評価や昇給、昇格の対象にする取り組みも今後検討していこうと考えています。

そして、その先では「AIドリブンカンパニー」というコンセプトで、企業のリブランディングを検討しています。社会貢献のために生成AIを活用するという企業のスタンスが、採用や離職にも響いてくるのではないかと考えています。

――選ばれる企業になれるかという視点においても、生成AIが影響をおよぼすということでしょうか?

もう、そういう時代になっていると思います。それはITやAI関連の業種に限らず、 流通や小売などほかの業種でも同じです。生成AIをはじめ、AIをうまく活用できない企業は、淘汰されていく時代になるんじゃないかなと感じています。

――もはや、部門や業務における部分的な課題ではなくて、経営課題として生成AIと向き合っていく必要があるということですね。

そう考えると、やはり最も大事なのは、社長や役員といった経営層が実際に生成AIを活用し、推進すること。そうではないと、なかなか定着しないと思います。私もさまざまなお客さまから相談を受けますが、生成AIを使っているのはエンジニアだけで、バックオフィスは使っていなかったり、実は経営層のなかに少し反対に傾いている人がいたりするケースも多いです。経営層自らがトップダウンで推進するということが、企業に生成AIを定着させる1つのポイントになるのではないかと思います。

――最後に、生成AI導入を検討している企業にメッセージをお願いします。

生成AIを活用してつくられたものを、どう精査して人間の頭で判断していくのかということが、これから大事になると考えています。さらに、生成AIはパソコンやスマートフォンに組み込まれていきますし、生成AIを使うという意識をせずにみんなが使っているような時代が来るのかなと思います。

しかし、まだ日本の市場では生成AIを活用できている企業や人材は少ない状況です。活用できてないところが多いからこそ、 逆に活用して使えるようになれば、おのずとビジネスチャンスが広がり、アドバンテージになるんじゃないかと思いますね。

PROFILE

TOSHIYUKI KIMURA

CLINKS株式会社 取締役
富士通グループに約20年在職し、サーバー、ネットワークの保守サービスの部隊を率い、後にアライアンスビジネスに専念し事業拡大を行ってきました。直近ではAI、DXの新規事業立上を実施し、現在ではAI、コンサル、クラウド、セキュリティ等、幅広いDXビジネスを展開。今後は生成AIを社内に定着化させ、そのノウハウをお客様に展開できればと思っております。