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語学アプリから教育者支援まで|生成AI海外事例集 -教育編-

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AI技術の進化が加速する中、生成AIが産業界に革命をもたらそうとしている。その影響は教育にも及び、語学学習から教育者の働き方まで、業界の姿を大きく変えようとしている。

本連載「生成AI海外事例集」では、世界各国の生成AI活用事例を紹介しながら、変革の波に乗る各業界の未来を展望する。今回は、教育における先進的な取り組みに焦点を当て、生成AIを活用した新たな学習方法や教育者の働き方改革、そして新たに浮上する教育課題を探っていく。

教育市場は2033年には77億USドルに成長。eラーニング市場は117億USドルに

アメリカ・ニューヨークに拠点を置く調査会社MarketResearch.Bizが2024年4月に発表したレポートによると、世界の教育における生成AI活用市場規模は、2023年で約3億USドルであり、年平均成長率39.5%で成長して、2033年には約77億USドルになると予想される。

2023年の同市場を地域別に見ると、北米が38%と支配的なシェアを占めている。しかしながら、現在もっとも成長しているのは、日本を含むアジア太平洋地域である。

<引用>https://marketresearch.biz/report/generative-ai-in-education-market/


2023年の教育における生成AI活用について使用される技術に着目すると、自然言語処理がもっとも大きなシェアを占めている。この事実は、ChatGPTをはじめとする大規模言語モデルの活用が、教育において進んでいることを示唆している。そのほかの活用技術として、教材のレコメンデーションに使われる機械学習、視聴覚教材と伴って使われる画像認識がある。

教育における生成AI活用のユースケースとしては、以下のような項目が挙げられる。

  • 教材作成の効率化:教材作成を効率化したり自動化したりして、教育者の負担を軽減する。
  • バーチャル家庭教師:自然言語でコミュニケーションできるバーチャル家庭教師によって、生徒の習熟度に合わせた学習が可能となる。
  • 採点の自動化:テストの採点を自動化することで、教育者の負担を減らすと同時に、テスト結果を迅速に生徒にフィードバックできるようになる。

MarketResearch.Bizは、2024年3月には世界のeラーニングにおける生成AI活用市場についてのレポートも発表している。レポートによれば、2023年における同市場規模は43億USドルであり、年平均成長率10.8%で成長して、2033年には117億USドルになると予想される。eラーニング市場が教育市場より大きいのは、前者は生徒だけではなく社会人も消費者として市場に含まれるからである。

同市場を地域別に見ると、北米が27.5%ともっとも大きなシェアを占めている。しかしながら、中国やインドのような人口が多いうえに政府が教育のDX推進に熱心な国を含むアジア太平洋地域が今後もっとも成長すると考えられる。

<引用>https://marketresearch.biz/report/generative-ai-in-elearning-market/


eラーニングにおける生成AI活用のユースケースには、以下のような項目が挙げられる。

  • 新興分野へのコンテンツ提供:データサイエンス、AIなどの新興分野への教材を迅速に提供する。
  • パーソナライズされた学習:教育における生成AI活用と同様に、学習者ごとに最適化された教材を生成・提供する。
  • シミュレーションベースの学習:生成AIはテキストによる知識獲得から、没入型シミュレーションによる体験中心の学習への転換を可能とする。

世界の教育における生成AI活用事例

以下では、世界の教育における生成AI活用事例をeラーニングの事例と合わせて紹介する。

Speak|GPT-4oを導入したスピーキング特化型語学アプリ

Speak」はスピーキング(言語を声に出して話すスキル)の習得に特化した語学アプリであり、2024年11月時点では英語の学習のみに対応しているが、学習できる言語を拡充する予定である。

Speakは英語ネイティブ講師によるビデオ・レッスン、フレーズを何度も発音するスピーキングドリル、フレーズを実践的な会話のなかで話す練習ができる会話シミュレーターから構成されている。これらの学習ステップのすべてにおいて、高速かつ高度な音声認識が活用されている。

<引用>https://www.speak.com/jp/technology


2024年10月2日には、同アプリにOpenAI開発のAPI「GPT-4o」が導入された。その結果、会話におけるタイムラグが劇的に削減された。同APIと同アプリ独自の学習エンジンが組み合わされることで、学習者の語学レベルに最適なフレーズが返答される。

項目内容
活用カテゴリ英語学習
企業名 / サービス名Speak
特徴3段階学習と音声認識を活用した英語学習
使用例英語スピーキングの習得に活用
利点正確な発音を確認できる
導入効果学習者の語学レベルに合わせた学習が可能

Praktika|AI生成アバターとインタラクティブに会話できる語学アプリ

Praktikaは、AI生成アバターとインタラクティブに会話することで語学を習得できるアプリである。そのインタラクティブ性は、以下に引用する動画で示されているようにバイリンガルな語学教師と対面で語学学習しているような体験が得られる。


10種類のAI生成アバターには、それぞれに性別と人種だけではなく性格なども設定されており、学習者が会話を通して感情的なつながりを形成できるようになっている。また、各アバターが学習者の語学レベルを評価することで、学習者にパーソナライズされた会話を提供する。

以上のようなAI生成アバターは、語学アプリであることを超えて、学習者の感情的な拠り所としても機能する。同アプリの公式ブログ記事のひとつでは、同アプリで語学学習することで転勤による孤独感を和らげた事例が紹介されている。

項目内容
活用カテゴリ英語学習
企業名 / サービス名Praktika
特徴AI生成アバターとの会話による語学学習
使用例学習者の母国語と英語の両方に対応したバイリンガルな英語学習
利点人間の語学教師との対面学習のようなインタラクティブな学習が可能
導入効果AI生成アバターと感情的につながることで孤独感の緩和も期待できる

SafetyCulture|生成AIによって迅速に研修教材を作成

オーストラリアに本社を置くSafetyCultureは、研修教材を生成AIによって制作するサービス「SC Training」を提供している。同サービスを活用すれば、例えば「荷物の梱包に関するガイドライン」といった研修内容に関するキーワードを入力すると、入力内容に即した画像付きの研修教材が生成される。最大6枚の画像のアップロードによっても、研修教材を生成できる。

<引用>https://training.safetyculture.com/ai-create/


生成された研修教材はPCやモバイルで閲覧でき、多言語翻訳にも対応している。モバイル対応版では、Wi-Fi接続時に研修教材をダウンロードしておけば、オフライン環境でも受講できる。

同サービスを利用したユーザの39%が研修教材を最大2時間早く制作でき、21%が生産性向上を実感している。

項目内容
活用カテゴリ研修教材の作成
企業名 / サービス名SafetyCulture / SC Training
特徴生成AIを活用した研修教材の作成
使用例各種業務におけるマイクロラーニング資料の作成
利点研修教材制作時間の削減
導入効果研修教材制作時間の最大2時間の短縮

Khanmigo|正解までの考え方を教えるAI家庭教師

教育系NPOのカーンアカデミーは、AI家庭教師「Khanmigo」を提供している。GPT-4をベースにして開発された同AIは、学習者の質問に回答しない代わりに、正解を得られるまでの考え方について順を追って説明するように設計されている。学習を継続すると、同AIのアイコンをカスタマイズできる帽子が増えるゲーミフィケーション的演出も取り入れられている。


対応教科は数学や人文科学、ライティングに加えて、プログラミング言語の学習にも対応している。対応プログラミング言語にはJava Script、HTML、Python、SQLがある。

教育者向けKhanmigoも用意されており、同AIを使えば、教師は問題の作成や保護者向けメールの下書きについてサポートを受けられる。教育者版は、無料で利用できる。

項目内容
活用カテゴリ生成AIによる家庭教師
企業名 / サービス名カーンアカデミー / Khanmigo
特徴正解を得られるまでの考え方を学習できる
使用例数学や人文科学、プログラミング言語の学習
利点正解を導ける思考力の育成
導入効果教育者向けアプリも用意されており、このアプリを使えば教育者の業務効率化が期待できる。

Google|教育者が生成AIの活用方法を学べるオンライン講座を提供

Googleは2024年4月、教育者が生成AIを活用して教育活動を効率化するノウハウを学べる無料のオンライン講座「Generative AI for Educators(教育者のための生成AI)」を公開した。同講座は、教育におけるAI活用を研究するマサチューセッツ工科大学傘下の組織MIT RAISE(Responsible AI for Social Empowerment and Education)と共同で開発した。

<引用>https://grow.google/ai-for-educators/


同講座では、以下のような実践を想定した生成AI活用方法が学べる。

  • 生成AIを活用して、スポーツにたとえて自然科学を説明する授業内容を作成する。
  • 生徒ごとの習熟度に合わせた授業のカスタマイズ。
  • 保護者向けメールの下書きを作成したり、病欠した生徒に対して授業の要約を作成したりする。

同講座を受講した教育者の83%が、生成AIの活用によって1週間あたり2時間程度の時間節約が期待できると答え、74%が授業で生成AIを活用できる自信がついたと回答した。なお、同講座は日本語版もある。

項目内容
活用カテゴリ教育者向け生成AIオンライン講座
企業名 / サービス名Google / Generative AI for Educators
特徴教育者が業務を改善できる生成AI活用ノウハウをまとめている。
使用例授業のカスタマイズや要約
利点教育者の業務時間を削減
導入効果1週間あたり2時間程度の時間節約

まとめ|教育における生成AI活用の動向と展望

教育における生成AI活用の主な特徴と影響を、より具体的かつ専門的にまとめ直すと以下のようになる。

  1. パーソナライズされた学習の強化
    • 生成AIは、生徒の習熟度や興味に応じてカスタマイズされた教材や指導を提供できる。それゆえ、個別学習の質が向上し、教育格差の是正に寄与する可能性がある。
  2. 教育者の負担軽減
    • 生成AIは、宿題の採点、自動フィードバックの提供、カリキュラム作成のサポートなど、教育者の業務を効率化する役割を果たせる。その結果、教育者はより創造的かつ個別的な指導に専念する時間を確保できる。
  3. マルチモーダルな教材作成の促進
    • 生成AIは、視覚や音声、テキストを用いたさまざまな表現方法で学習コンテンツを作成できる。こうしたマルチモーダルな教材によって、学習スタイルや文化的背景が異なる生徒にも対応しやすくなる。
  4. 教育機会の平等化
    • 生成AIは低コストで質の高い教育リソースを生成する能力を持つため、教育リソースが限られている地域や家庭にも平等な教育機会を提供する手段として期待される。


2025年以降の今後の展望としては、以下の点が重要になると考えられる。

  1. 批判的思考力の必要性の増加
    • 生成AIの活用が進むことで、生徒が情報の正確性や信頼性を評価する批判的思考力がますます重要になる。生成AIが生み出すコンテンツをそのまま受け入れるのではなく、吟味するスキルが教育の重要なテーマとなる。
  2. 倫理的・社会的課題への対応
    • 生成AIの活用により、プライバシーの保護、バイアスの除去、AIの透明性の確保など、新たな倫理的課題が生じる。これらの課題に対処するため、教育現場でもAIリテラシー教育が求められる。
  3. 教育データの活用による改善
    • 生成AIを教育データの分析に活用することで、生徒の学習パターンや課題を迅速かつ詳細に把握できる。こうした情報にもとづけば、個別指導や教育カリキュラム全体の改善が可能となる。
  4. 実験的かつインタラクティブな学習環境の提供
    • 生成AIを活用して、シミュレーションやインタラクティブなストーリーテリングを通じた学習を提供する。体験重視の学習により、生徒は従来の学習方法では得られない深い理解と応用力を身に付けられる。
  5. 過度なパーソナライズ学習への対策
    • パーソナライズ学習が過度に進行すると、習得事項の範囲を狭めてしまう懸念が生じる。学習の進行については個々の学習者に最適化しつつも、各教育科目における必須教育事項の習得を確実なものとする施策や方法論が重要となる。


以上を総合すると、生成AIの教育への活用は、個別学習の質向上や教育格差の是正といった直接的な利点だけではなく、批判的思考力やAIリテラシー教育といった新たな学習目標の設定をもたらす。それゆえ、生成AIを活用した教育システムを利用する企業や個人は、生成AIによる教育の効率化・改善といった恩恵を受けつつも、生成AIの出力を批判的に検討する姿勢が重要となるだろう。

(記事著者:吉本幸記