文章生成AIは敵じゃない。生成AI時代の新しいライター像とは?

INTERVIEW 013
YUTAKA MORIISHI
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生成AIの登場によって文章作成の環境が劇的に変化し、ライターの仕事がなくなるという声も聞こえる昨今。文書制作AIアシスタントサービス「Xaris(カリス)」を提供する株式会社スタジオユリグラフの代表取締役 森石 豊氏にお話を伺いました。森石氏は、AIに置き換えられるスキルも存在する一方で、「どういう価値観で、どう生きてきて、何を見てきたという、より本質的な部分が重要になってくる」と語ります。AIと人間はどのように共存するのか、生成AIは人々の創作の可能性をどう広げてくれるのか、そして生成AI時代の新しいライター像に迫ります。

生成AIがライターの仕事を奪う? 大切なことは「何を信じたいか」

ー森石さんがAIに興味を持ったきっかけを教えていただけますか?

私はライターとしてのキャリアのほかに、SF小説も書いています。その中で、8年前に書いた作品が、AIが人間のクリエイティブな活動を全て行ってしまうというものです。AIがいつか人間のクリエイティブな領域を担うようになるだろうというイメージは、この時から持っていました。

ーまさに生成AIという形で、AIがクリエイティブの領域で活用されることが現実になりましたね。

そうですね。この作品を書いていた当時、「機械に代替されずに残るのは、人間のクリエイティブな領域だ」という考えが主流だったように思います。「そんなことはないはずだ」と、逆張りして書いたつもりだったのですが、ちょうどこの小説を書いたのと同じ年に、Googleが「DeepDream」という現在の画像生成AIの先駆けとなるプロダクトを発表し、世間に大きな衝撃を与えたんです。その時から、近くこういう未来が来るだろうとは感じていました。

ー生成AIの台頭によって、ライターの仕事がなくなるのではという声もあります。森石さんはどのように見ていますか?

現状は断言するのが難しいので、何が正しいかというよりは、どんな未来を信じたいかという話になりますが、個人的にはAIによってライターが必要なくなる未来を「信じたくない」です。以前はAIがクリエイティブを全て担い、人間がそれを行わなくてよくなる未来を予想していたわけですが、実際にChatGPTのようなAIが出てきてライターは不要だと言われ出すと、今度はその逆の考えを持ちたくなるというか……。AIとは別の役割でライター生きていく未来があるはずだ、と信じています。

「個性」の価値が高まる時代へ。プロンプトやAIの回答にも影響

ーライティング分野において、AIと人間はどのように共存すると考えられますか?

ライターのスキルは「数字に置き換えられるもの」と「数字で置き換えられないもの」の2つに分けられると思います。前者は例えば、検索エンジンの表示順位やページビューを上げたり、SNSで「バズる」ための文章テクニックなどがあるでしょう。このような、結果を「数字」という指標で測ることができるスキルは、AIが得意とする領域だと思います。一方で、後者は例えば、書き手の価値観や好み、こだわりが反映されたような切り口だったり、書き手の顔が見えるような文体といったもの。これらは数字に置き換えられないスキルであり、AIに代替されない人間の役割として残っていくと思います。こうしたスキルは「個性」や「その人らしさ」と言い換えることもできるかもしれません。

ー個性は、プロンプトにも表れると思いますか?

表れると思います。例えば、同じテーマのインタビューでも、インタビュアーが持っている知識や考え方によって質問の種類や言い回しは異なるでしょうし、それによってインタビューを受ける側の回答も変わってきますよね。生成AIに対しても同じことが言えると思っていて、質問者の知識や考え方によって自然と生成AIへの質問(=プロンプト)も変化し、それによって生成AIの回答も変わるはず。そのため、生成AIから導き出される答えそのものに、利用する側の「個性」が反映されると考えています。

苦手意識からの解放。生成AIは人々の創作の可能性を広げる

ーこれまで「文章を書くのが苦手だけど、ライターや小説家を目指したい」と思っていた人たちにとっても、生成AIは有効な手段になり得るのでしょうか?

人々の創作の可能性を広げるという点で、生成AIには大きな力があると思っています。文章を書くのが苦手な方でも、生成AIを活用することによって気軽に創作表現できる未来がやがて来るでしょう。実際、弊社が提供する「Xaris」を使用するお客さまの中には「小説を書きたかった」という方や、「これを使えば書けそう」と期待を寄せてくださる方もいます。

ー生成AI時代の新しいライター像を描くとするなら、今後どんなスキルが必要になってくると思いますか?

「個性」や「切り口」といった本質的な能力がより重要になると思います。バズるための書き方やタイトル、SEOで上位表示させる構成、ハリウッド流の人の心を動かす脚本構成など、マニュアル化・フレームワーク化されたテクニックはAIにすぐ模倣されるため、いかに代替されない「プラスアルファ」を見つけて差別化するかがより重要になります。

そのために必要なのが、書き手自身がどんな人生を生きて、何を見て、どんな価値観を持っているかということ。技術やキャリア、経歴よりも、個人としての独自性や魅力が、書き手としての価値を形成する時代が来るのではないでしょうか。「この人、面白いから小説を書けばいいのに」と私が思っても、「書くのが苦手なんですよ」と表現を諦めている人をたくさん見てきました。生成AIによってそんな人たちに広くチャンスが開かれる一方で、これまでの書き手は自分のスキルの価値を改めて見直し、これからどんな能力を磨いていくべきかを考える必要があるのではないでしょうか。

PROFILE

YUTAKA MORIISHI

一般社団法人生成AI活用普及協会 協議員/株式会社スタジオユリグラフ 代表取締役
横浜国立大学卒。雑誌ライター、動画ディレクター、オウンドメディア編集長などを経て独立。SEOコンテンツを中心に記事制作を行うかたわら、複数のスタートアップ企業のサービス立ち上げに関わる。2023年7月に文書制作AIアシスタントサービス「Xaris(カリス)」をリリース。また「維嶋津」というペンネームでSF作家としても活動している。