AIを使わないことこそがリスク。生成AIの企業導入におけるガイドラインの重要性

INTERVIEW 015
RYUTARO OKADA
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2022年11月のChatGPTの一般公開は世界に衝撃を与え、産業界でも生成AIのビジネス活用に対する注目が高まっています。このような生成AIが台頭する以前より、ディープラーニング技術を日本の産業の発展につなげるために先駆者として活動を重ねてきたのが、一般社団法人 日本ディープラーニング協会(以下JDLA)です。利便性の一方でリスクを伴う生成AIに対して、私たちはどのように向き合っていくべきなのか。JDLAで専務理事を務める岡田 隆太朗氏にお話を伺いました。

AIは日本の労働力不足を解決する鍵。JDLAが捉えるAI業界の変遷と生成AIの台頭

ーJDLAの設立から6年が経過します。AI業界の変遷について振り返っていただけますか?

AIの機械学習の一種であるディープラーニング技術は、2012年頃から急速に進展しました。圧倒的な成果を出しているこの技術を、いかにして社会実装し日本の産業競争力につなげていくのか。少子高齢化と人口減少という課題に直面する我が国において、労働力不足を解決する鍵を有するディープラーニング技術の活用は大きなチャンスでもあります。そうした背景のもと、JDLAは「日本の産業競争力の向上」を目指し2017年に設立されました。

AIは1950年代の第一次ブームと1980年代の第二次ブームのあと、膨大なデータ処理上の技術的な課題によって、世の期待に応えることができず、冬の時代を迎えました。その後、2000年代から第三次ブームが続いていると言われる中、JDLAの理事長である松尾 豊教授は、「しっかりと技術を理解して社会実装することができる」会社をラベリングしてAIの普及を促進することが必要と考えました。

こうしてAIの技術を理解し社会実装できる会社が会員となり、JDLAの活動が始まりました。設立当時の正会員の会社数は7社(うち上場会社1社)でしたが、現在では37社(うち上場会社13社)まで増えています。JDLAの設立から6年が経過し、AIに対する認知が広がり、社会実装も進んでいます。

ー昨今の生成AIの台頭については、どのように捉えていますか?

2022年の11月にChatGPTが公開され、自然言語による生成AIの利用が全世界的に一斉にスタートしました。待った無しの状況の中で、圧倒的な成果を生み出すディープラーニングの技術が、加速的に社会で活用されていく状況になりました。個人的にはこの状況は、第三次ブームが終わる前に、すでに第四次ブームが始まっているのでないかと認識しています。企業における生成AIの導入も進行しつつあり、多くのビジネスマンが生成AIという高機能なツールの活用による業務効率化や生産性の向上について理解し始めてきたのではないでしょうか。

未知に対する恐れを軽減するために。生成AIの企業導入時にガイドラインが必要なワケ

ー企業が生成AIの導入を進めるにあたり、どのような課題があるのでしょうか?

生成AIは便利なツールでありながら、リスクを内包していることが課題ではないでしょうか。主に注意すべきは、セキュリティとコンプライアンスだと考えています。セキュリティについては、Webからアクセスできる生成AIの場合、インプットされたデータはAIの学習に利用される可能性があります。機密情報を含む自社データがAIの学習に利用されないようにするためには、セキュリティ環境を構築することで安全な利用につながると考えます。

一方、コンプライアンスについては、インターネットと同様に考える必要があると考えます。前提として、インターネットで収集した情報が正しいとは限らないことと同様に、生成AIからアウトプットされた情報を鵜呑みにして利用することは望ましくありません。現段階の生成AIにはハルシネーション(もっともらしいウソ)と呼ばれる現象が発生する可能性があるため、今まで利用されてきたコンプライアンスのルールを適用することが必要だと考えています。

ーそのような課題のある中、JDLAが発表した「生成AIの利用ガイドライン」について教えてください。

現在、生成AIの利用に伴うリスクに対する懸念から利用を禁止する企業や、生成AIの活用を検討しながらも踏み切れない企業が見受けられます。このような未知に対する恐れに対し、生成AIの利用におけるルールを言語化し、企業や組織での安全な利用を促すことが、ガイドラインの重要な役割です。

このガイドラインを各企業や組織が策定する際に、決めておくべき項目が記載されているひな形として、2023年5月に「生成AIの利用ガイドライン」を策定し一般公開しました。JDLAのWebサイトから誰でも無料でダウンロードでき、ひな形に穴埋めする形で企業名を加えたり、各々の組織で必要な修正を加えることで、ガイドラインとして利用できます。2023年9月末時点で、すでに6万ダウンロードされており、大変多くの方々にご利用いただいています。

また、JDLAではAIサービスのガバナンスについても研究を行ってきました。AIサービスのガバナンスに関する取り組みは「個々の組織内のみでなく、外部環境や評価機関とのつながりを踏まえた検討が必要」という問題意識が原点です。研究成果は「AIガバナンス・エコシステム」としてJDLAのWebサイトで公開しており、誰でも閲覧できます。こういった情報も参考にしていただくことで、AIの企業導入を安全に進めていただきたいと考えています。

AIを使わないことこそがリスク。人とAIが共存する社会へ

ーリスクへの懸念が叫ばれる中で、人はAIとどのように付き合っていくことが望ましいのでしょうか?

個人的にはAIを使わないことこそがリスクだと考えています。例えば、いま当たり前に利用されている自動車にもリスクは存在するんです。事故が起きてしまったり、死者が出てしまったり、あんなに危ないものが人の近くを走っているわけです。けれども、そのリスクを上回る圧倒的な利便性が自動車にはあるからこそ、利用を禁止するのではなく付き合い方を考えてきたわけですよね。道が舗装されて、運転免許の仕組みがあって、教習所があって、保険があって。そういった安全に利用するための環境づくりを進めていくことが重要だと思います。

ー生成AIをはじめとするAIが普及した先には、どんな未来が待っているのでしょうか?

今後はあらゆるものにAIが実装される社会が到来するでしょう。例えば、米国では自動運転のテクノロジー企業「Waymo(ウェイモ)」が無人タクシーを実現しました。AIを活用した完全自律走行のタクシーが実用化されて街中を走っています。JDLAとしても日本社会にAIが実装されていくための努力を続けていきたいと考えています。

ー生成AI活用の第一歩を踏み出そうとしている方に向けて、メッセージをお願いします。

生成AIの活用において、我が国は世界の中でも先頭集団を走っています。今まで、新しいテクノロジーが勃興した時に、日本が国を挙げて応援するような環境はなかったのではないでしょうか。このようなチャンスを逃すことなく、生成AIに関する背景や技術、活用方法について理解した上で使ってほしいと思います。今はまさにビジネスでも生成AIの活用を進めていくタイミングです。JDLAは日本の産業競争力の向上のため、これからもAIの利活用を促進していきます。

PROFILE

RYUTARO OKADA

一般社団法人日本ディープラーニング協会 専務理事
1974年生東京都出身。慶應義塾大学在学中に起業。事業売却後事業会社を連続設立し、2012年に株式会社ABEJAを共同創業。2017年、ディープラーニングの産業活用促進を目的に一般社団法人日本ディープラーニング協会を設立し事務局長に就任。2018年より同理事兼任(現専務理事)。2019年より全国高等専門学校ディープラーニングコンテストを開催。2021年「DCON Start Up 応援1億円基金」を創設。