製造・物流・航空宇宙まで。生成AI×エッジコンピューティングがもたらす可能性

INTERVIEW 003
KYOKO OTAWA
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近年、IT業界で注目されている「エッジコンピューティング」は、生成AIの活用にどのような可能性をもたらすのか。IoT/エッジコンピューティングの技術やAI技術を活用し、大手製造業や小売業、サービス業などを対象に生産性向上、デジタル化のための技術提供を行っているラトナ株式会社の代表取締役 大田和 響子氏にお話を伺いました。生成AI×エッジコンピューティングの可能性について、大田和氏は「工場や物流、宇宙のロケットの現場などあらゆる環境で生成AIが当たり前のように使える環境が実現できると思っている」と語ります。生成AI単体ではなく、技術が掛け合わさることでどのような可能性が広がるのか、その具体例に迫ります。

ゼロコンマ何秒の世界で活躍。エッジコンピューティングとは何なのか

ーエッジコンピューティングとは何なのか、簡単に教えていただけますか?

エッジコンピューティングはクラウドコンピューティングの対局にある概念として捉えられるもので、特定のソフトウェアやアプリケーションが動作する環境を指します。クラウドコンピューティングは集約されたサーバ(クラウド)にデータを送信して処理するのに対し、エッジコンピューティングはデータを収集する端末機器、通信経路に近いエッジエリアで処理します。こうすることで、負荷の分散や混雑解消などのトラフィックの最適化ができるというメリットがあります。

弊社の技術開発では、エッジコンピューティング環境で動作するアプリケーションを開発する、あるいはクラウドでしか動作できなかったソフトウェアをエッジコンピューティング環境で動作可能にする、といったことに取り組んでいます。

ー実際に、どのような場面で価値が発揮されているのでしょうか?

例えば、工場の自動化を実現するためにエッジコンピューティングの技術が活用されています。工場の生産ラインはゼロコンマ何秒の時間であっても停止はおろか遅延も許されません。ところが、AIを使用すると、処理が重くなるので、停止やタイムラグが生じることがあります。このような状況でクラウドではなく、エッジコンピューティングを利用すると、遅延が発生せず、安定稼働が実現できます。

また、工場のような環境では膨大なトラフィックが発生するため、クラウドの課金形態だと、自動化やデジタル化をすることでむしろコストが割高になってしまうケースがあります。それにより、現場での採用が見送られることもしばしばありますが、コストを抑える手段として、エッジコンピューティングの活用を検討いただくこともあります。

生成AIを活用できる環境を広げる。エッジコンピューティングを掛け合わせるメリット

ー生成AIにエッジコンピューティングを掛け合わせると、どんなメリットが生まれるのでしょうか?

現在、生成AIは主にクラウド上で使用されていますが、顧客の目指す世界としては、工場の現場や物流の倉庫、宇宙ロケットなど、様々な分野で「エッジコンピューティング環境で生成AIを活用したい」という要望が寄せられています。生成AIの技術は各所で広まってきており、活用したい企業も多いですが、私たちがお取引させていただいている企業さまの場合は、エッジコンピューティング環境でのソフトウェア稼働も多く、同じ環境で生成AIが動かせたらよいのに、という思考になります。また、弊社は、宇宙関連についてはJAXAさんとの取り組みも進めており、本格稼働に向けて動いているところです。

ー消費者には見えないところでも生成AIが活用され、気づかないうちに恩恵を享受しているわけですね。

そうですね。現在、弊社はBtoBの領域での取り組みを進めています。そのため、消費者に直接恩恵が届くまでには多少の時間がかかります。しかし、人手不足や労働人口の減少といった問題を解決するためにはAIを積極的に活用し、自動化を推進することが急務です。私たちが取り組みを進めれば進めるほど、消費者にも新たな価値をお届けすることにつながると思っています。

生成AIが物理分野にも? 人の代替だけでなく、モノを代替する未来

ー最後に、生成AIの可能性として興味を持たれている分野について教えてください。

生成AIが物理分野に広がることに興味を持っています。今の生成AIはテキストベースでの活用が主流ですが、これが物理分野で使われると、ロボットを自動で動かすために指示をするAIになります。そうすることで、人型ロボットであったり、自動運転の世界であったり、本当の意味での人の代替が実現することにつながっていくのが楽しみですね。AIはさらに、人の代替だけでなく、モノを代替するところまで進化すると、私は信じています。

PROFILE

KYOKO OTAWA

一般社団法人生成AI活用普及協会 協議員/ラトナ株式会社 代表取締役
東京女子大学卒業。2014年、新卒で楽天に入社。その後、アクセンチュアでコンサルタントを経験。アクセンチュア時代にテクノロジー勉強会を開催し、日本社会の問題解決に貢献できる技術としてエッジコンピューティングの可能性を発見。2018年、26歳でラトナを創業。現在はIoT/エッジコンピューティングの技術やAI技術を活用し、大手製造業や小売業、サービス業等を対象に、生産性向上のための技術提供、開発を行っている。